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血の召還

 年齢を重ねて参りますと、月日の流れというのは早く感じるようになるものです。
 いやー、あっという間でしたね、この四ヶ月ほども。このくらい早いと、その間にいちいち何があったかなども思い出せなくなってしまいます、はい。
 あ、ワンフェスは行きました。事前に「読み解け」でもお伝えしていた通り、FSS関係のでっかい展示がありまして、お目当てだった超絶技巧のガレージキット群や、無数のFSSキャラに扮したキレイなコスプレのお兄さん、お姉さん達に見蕩れてしまいました。ちなみに、FSSの展示の入り口にあったでっかい「DANCE(コミックス一巻の表紙絵)」の前で、午後の間中ずうっと飛翔するラキシスと梵天のようなナイトオブゴールドをぼんやり見上げていたアホっぽいメガネ君がてなしもでした。入り口近くで通行の邪魔になっていたので、会場に行かれたあなたにもひょっとしたら御迷惑をおかけしていたかもしれません。ゴメンナサイ。
 さて、えー……。
 先月号では、剣聖カイエンとムグミカ王女がボスやんの手にかかって殺され、流れ出た二人の血液が交じり合ったところで突如「血の召還」が行われて、ほむらの女皇帝・ナインが現われたんでしたね。
 あー……。
 そう、何かが引っかかると思っていたんですが、やっと思い当たりました。僕、先月号の「読み解け」やってませんね。いかんいかん。
 あれ……?
 その前の月も、やってないです? そ、その前も?
 お、おかしい、この四ヶ月の記憶が、記憶が。僕はどうしてしまったんだ。
 (でも永野先生と一月中旬にご一緒させていただいたPSOでの冒険はるんるんと思い出せたりする)

 とか言いながら、例によりまして見開き単位で、まるで何事も無かったかのように今月分の読み解きに参ります。


表紙

 いつも通り彩色されたイラストで、深緑のプラスティックスタイルスーツに身を包んだファティマ・霧姫の立ち姿です。
 その隣には霧姫のマスターであるビオレート・トライトン属するフィルモア帝国の、主力MHと主な騎士の名が簡単に説明されています。
 え、ファントムって三騎あるの?
 しかも、「次期主力MHと噂され」ているそうです。サイレンR型というダミーの型番まで用意されており、しかもその型番が本来割り振られているのはやっぱり新開発の最新型サイレンなんだそうです。従来のサイレンとは異なって、非常にスマートな装甲形状をしており、それを駆る新設の皇帝警護騎士団・白グループの団長はフィルモアの誇る天位騎士(にして未だ本編未登場)のジャンシー・ガラー。ガラーのファティマ・シンドラはDrダイアモンドの作なんですって。いやーもう、ノイエシルチスの黒グループ筆頭はペテルギウス・ズーワットでパートナーはファティマ・ナロン、その使用MHはサイレンFGとか、例によりまして聞いた事無い名前が出まくってます。

 こうやって、FSSでは表紙だけで猛烈な勢いの設定を公開することがちょくちょくあります。
 その内容は大抵、近い回の連載の中でも消化されて特に別記する必要が無くなってしまうので、コミックスに収録されないことがほとんどです。

 さらには、遊星傭兵騎士団の紅騎士としてハスハ奪回作戦のシーンに登場した「ミス・マドラ」の名と、「お笑い組の剣聖」という、間違い無く慧茄のことを指していると思われる人物のことまでも記載されています。同誌のワンフェスレポート記事の中で作者本人の「WFに寄せて」という寄稿がありまして、その中で何気なく「カイエンってどうなるんですか~??」「あ、死んだ死んだ」というえげつない質疑応答が載ってたりするので、やはり、先月号のあっけないと言ってしまっていいだろうあのやりとりで、我らがダークナイト、シルバーナイト、南京虫にして最強の伊達男は亡くなられてしまったようです。となると、その時代の最強の騎士を示す称号である「剣聖」というのは別の誰かに渡るわけで、それがどのような手続きによるものかはわかりませんが、先代の剣聖である慧茄の元へ三度戻ったということなのでしょう。


 ととと。
 まだ始まったばかりですが、ここまで書いてきて、もう時間がなくなってしまいました。えっへん。(威張ることでは無い)
 今月号の本編は、大暴れの「あの方」に関する考察をメインに、ハスハ陥落というリアルな事態と、神話と人類史の融合という幻想的な物語の同時進行という状況を通して、またも「FSSとは何か」みたいなことを読み解いていきたいと思います。
 また、ニ、三日中にお会いしましょう。

二つ!

 今や数あるWEB上FSS連載レポートでも最も更新が遅いと評判のこのコーナー、今月は初期コンセプト通りのお届けです。
 来年二月に開催される次回の「ワンダーフェスティバル」におきまして、我らがFSS関係の展示が主要ガレージキットメーカー数社の協力の元、大々的に行われるということは先月分の更新で書きましたが(書いてない)、模型雑誌は毎月欠かさず手にとってFSS関係の造形物の写真だけチェックしてまた本棚に戻す、という程度の造形ファンとしましても、イベントそのもののシンボルキャラクターに我らがファティマ・アウクソーが使用されるというほどの盛り上げが行われるとなれば、是非会場に行って色々見て歩きたいと思っております。
 ガレージキットというのは、一言で言うと高級な模型のことです。腕に自信のある製作者が自宅の車庫(ガレージ)なんかでほんの数体の作品を制作し、大人でも躊躇うような値段の付いたそれを、よいと思った人が買う。その売り手と買い手がわんさと集う国内最大級のイベントが「ワンダーフェスティバル」なのだそうです、たぶん。行ったこと無いのであやふやでスミマセン。
 精密に造られた立体のMHキットは、FSSの作中で言われているようにまさしく芸術品のような美しさです。同じMHが題材でも造り手さんが違うとまたあちこちに違いが感じられたり、一つ一つのパーツの形は同じなのに組みあがり品からそれぞれに異なる印象を受けたりする体験は、実際にMHを目にした時にもこういう感覚を受けたりするのかもと思わせてくれます。
 ガレージキットメーカーのショールームでやたら姿勢を低くして、まるでお姉さんの下着を覗きこんでいるかのような仕草でMHキットのショーケースを陶然と眺めている男がいたら、それは低視点からのMH観を満喫しているてなしもかもしれません。以前から名古屋の大須と東京の秋葉原のVOLKSショールームによく出没してます。

 さて、今月分の内容ですが、これも先月分の更新で書きましたように先月は連載がありませんでしたので(書いてないってば)、先々月分の続き、開戦直前のフィルモア側の描写から始まります。
 今回の内容は、二つ、です。FSSファンだけの至福の二つです。


表紙

 手前に立つファティマ・アトラスと、奥にシルエットで描かれた細身のMHです。
 細身のMHは、手首のあたりなんかカフスボタンみたいに見える形状になってまして、後頭部から何本も伸びるおそらくカウンターウエイトのシルエットがちょうど長髪のようですから、なんとなくお洒落さんな印象です。
 その手の上には、女性のファティマっぽいシルエットが立っています。
 えーっと……。
 どなたかこちらの方々のことを御存知でしたら教えてください。その、毎度毎度のことではあるんですけど、いったい作者はまだどれだけのデザインを隠し持っているのでしょうか。
 両肩の形状だけ見ると、アクティブバインダーを外したオージェ・アスルキュルにも似てるような気もします。


最初の見開き

 今月は「見開き」ばっかりなのでやはり見開き単位で見て参ります。
 フィルモア軍の後方に展開する空中要塞。そこから数騎のMHベルゲ・サイレンが投下されます。欄外に説明がありまして、戦場で動けなくなったMHの回収や騎士の救助を専門に行うのだそうです。
 FSSの一巻の一番最初のエピソードで、黒騎士を討ち取ったミラージュ騎士カーレル・クリサリスが帰還用に要請していたベルゲ・ミラージュというのがありましたが、やはりMHも騎士も国家の有限の財産ですから、大きな国でもこういう専門部隊を使ってリサイクルするわけです。「ベルゲ・マグロウ」とか「ベルゲ・アマロン」とかもあるのかなあ。
 しかしこれも装甲形状が他のサイレンとは全く異なるデザインです。関節部は大きく開いていて動きが良さそうですし、背中にはでっかい背負子、手にはアイスホッケーのスティックのような引っ掛け棒。一騎で破損サイレンの二三騎は運んでいけそうです。

 左のページに入りまして、アルカナサイレン・はぁとのブルーノ・カンツィアンが、クリスティンにまずは自軍の中翼に入るように直言します。最初の正面突入は、重装甲のアルカナサイレンが適任というのは、道理と思われます。
 この時ブルーノは「先鋒は私と トライトンが はねます!」という、少々変わった言い回しを使いました。最初に読んだ時は気が付かなかったのですが、後の展開を読むとなるほど納得です。突入の戦法はこの時点で決定されていたわけです。
 それをクリスティンは、微笑みすら口元に湛えて拒否します。

「我が命はこの時のために 生かされてきたのでは ありませぬか?」

 戦場に立つ者の一人一人には、その時そこに居る理由というものがそれぞれにあります。
 クリスティンはフィルモアの前に立ちはだかる敵を倒す、ただそれだけの為にこれまで生かされてきた少女です。作者の言葉ですが、「一人殺したら犯罪者、一万人殺せば英雄」と言われるように、クリスティンは幼い頃に一人の人間を殺してしまったがために、将来、つまり戦場に立っている今、敵を無数に殺さねばならぬ十字架を背負っています。
 そこにはまた、こんな恐ろしい宿命であるとはいえ、自分の生きてきた意味、自分という存在の理由、答え、そういったものにめぐり合えた人間の、高揚感すら漂っています。
 そしてこのシーンのクリスティンの耳には、くっきりと描かれた、まさしく「十字架」のイヤリングが下がっているのです。


二つ目の見開き

 あの日、泣いていた少女と、同じものが描かれています。
 今もあの日と同じ罪と悲しみを胸に、少女は、自分が最前線で戦う理由を配下に告げます。クリスティンはこれほどに美しく成長しました。ファティマの人工的な美しさとは異なる、生命感に満ちたその姿。豪奢に広がるブロンド。手にはフィルモアの紋の入った、娘への恩赦を請い自刃して果てた父の刀。右肩に時の剣聖から受けた天位の証の傷痕。自ら望んで殺戮マシーンとなった、いや、これからそれになろうとしている、あまりにも人間的な美しさです。
 トライトンはその意を受け、指示を託します。作中時間で三十二年前(僕らの感覚だと八~十年前くらいと推測)のあの日、クリスティンを守るために動いた騎士の一人であり、トライトンはこの少女がこの十字架を背負うことを宣言したその場に立ち会っていました。
 ブルーノも口を瞑ります。こちらだってクリスティンの父、バーバリーズの介錯を務めた男です。
 そしてクリスティンは、宿命を受け取った証として、いや、宿命を遂行するために与えられたフィルモア皇帝専用MHV・サイレンのコクピットに身を沈めながら、パートナーのファティマ、町の名を呼びます。
 町は自分のマスターの意を総て汲んでいます。
 初陣ならばファティマの戦況判断に騎士は従い、ファティマが退けと言ったらどんなに有利と思っても下がらなければならないのが当たり前のところを、町は決して下がらない、プログラム補正が不可能なところまで破損しても、片腕を失っても戦いつづけるとクリスティンに宣言します。

「おまかせあれ…… この日を 待っておりました! マスター……」

 ファティマが高揚感を表情に現す場面というのは、今までのFSSの中でもちょっと憶えがありません。主の本懐を遂げさせんとする歴戦のファティマの、なんとも言えない表情です。
 ああ、だめだ。皆さん、コミックス十巻の最初のエピソードをお読み返し下さい。ここでどんなに文章を工夫しても、今の僕にはこの騎士とファティマの内面を書ききれません。
 この冷たく燃える微笑に、クリスティンは答えて騎士団への指示を叫びます。


三つ目の見開き

 舞うような姿のV・サイレンを手前、クリスティンの「前進!!」と共に、フィルモア軍のサイレンが一斉に踏み出す見開きです。
 無数の重装甲MHの動き出した音が一つにまとまって、「ズゴン」という巨大な書き文字に表現されています。


四つ目の見開き

 迎え撃つメヨーヨ軍が、クラーケンベール大帝騎乗のMH姫沁金剛の指揮の元、こちらも一斉に全MH前進です!
 先陣を切るのはパイドル卿の駆るスペシャルチューンのMHアシュラテンプル。両肩が巨大に膨れ上がっています。


五つ目の見開き

 さらにフィルモア側の見開き!
 進攻するサイレン軍団の先頭から、クリスティンのV・サイレンが「突撃!!」の指示を叫びながら、地面に大爆発を起こしたような砂煙を立てて超加速で前方に、ブルーノが先に言っていた通りに、はねます!


六つ目の見開き

 今度は見開きで上下二段!

「音速突撃!! ハイランダーに 続け!!」

 総てのサイレンが、クリスティンに続いて超加速で飛び出します!
 さあそれを受けて、メヨーヨ軍も突撃、真正面から迎え撃つ!


最後の見開き

 両軍超高速の激突!
 大地と大気を一つに融かす衝撃波に、あたりの地面が捲り上がっていく様子が遠景から描かれて、これにて今回も次号に続くと相成りました。


まとめ

 「音速突撃」ですよ。
 たたみかけるような見開きのラッシュで描かれたこの戦闘法、つまり、MHの機動力にものを言わせて衝撃波を発生させながら敵陣に飛び込み、粉砕するという攻撃です。
 これ、素人考えですけど、多分、FSSという作品の中のMH戦、それも大規模な集団戦でないとありえない戦い方です。
 たとえば、歩兵や戦車は音速では動けません。艦船もしかり。戦闘機は相手の攻撃を受け止めるという意味での陣を組みません。SFの世界を想定しても、宇宙空間でこんな格闘戦を前提とした戦法は成立しません。
 MHという兵器の性能があるからこそ成立する、これはリアルにシュミレートされたその運用法です。
 つまり、FSSの読者だけがこの痺れるような格好よさを楽しめるのです。

 「数年越しで語られてきた悲劇を背負った剣の達人のブロンド美少女が戦場で己の宿命に向かい合って立つエピソード」と、「音速突撃」の二つ。
 どちらもFSS以外ではちょっとやそっとのことでは読めないでしょう。
 これだけのものを僕らに見せつけて、なおFSSは続いていきます。

 ああまったく、なんて面白いマンガなんだ!

 あ、そうだ。
 永野護先生、奥様、結婚十周年おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。

晴れ上がった青空の下で

 もう午前3時ですよ。
 あと6時間もすると、本屋さんが開いて月刊ニュータイプ11月号が購入できてしまいます。あかん、急ごう。
 と、急いでいるからというわけではないのですが、今回は見開きページごとの読み解きでは無く、描かれている各要素ごとについて、いろいろ考えてみるという書き方をしてみます。そのほうが今月は解り易そうです。


表紙

 フィルモアとメヨーヨの紋章が白地の誌面からはみ出す大きさで描かれています。これから両軍が大戦闘です。


両軍の紹介ページ

 見開きで、右ページにフィルモア軍、左ページにメヨーヨ軍の紹介がなされています。
 フィルモア側は大将の皇帝代理騎士(ハイランダー)クリスティン・ビィと、彼女御付の皇帝警護騎士であるビオレート・トライトン、ブルーノ・カンツァインという三名の騎士、そして三種のMHサイレンが紹介されています。
 対するメヨーヨは大帝クラーケンベールと彼のファティマ・アンドロメーダ、そしてこちらも三種のMHアシュラ・テンプル……いや、クラーケンベールのMH姫沁金剛の解説文を読むと、

「主力MHであるアシュラ・テンプルをチューンアップしたものと思われがちだが、その設計は根幹から異なり、アシュラ・テンプルよりも若干小柄である。その性能は不明」

とのこと。
 その上、メヨーヨ軍が揃って搭乗しているMHアシュラ・テンプルDDは、今回が初登場の量産型。以前にイラー・ザ・ビショップが駆っていたものと同型の騎体をアグファ・パイドルが使っていますが、ドラゴントゥースが取り外され、これもすでに別物。となれば、これから大暴れする中に、僕らの知っているアシュラ・テンプルは居ないという事ですね。
 両陣営のMHのカラーリングは、フィルモアが青系メヨーヨが赤系でその対称性が美しいです。


まずメヨーヨ

 クラーケンベールが超ニッコニコです。
 前回でこそ、星団最強の軍隊の最精鋭部隊といきなり鉢合わせてビックリ、参謀のアグファと顔を引きつらせて冷や汗なんかかいていた大帝ですが、前回のセリフにあった通りこれぞ「願ってもない」相手と、ゴキゲンで広報部隊に前線への展開を指示します。さらには戦闘会話以外を受信可能なオープンに、とまで大決定。星団中のTV観戦者に大サービスです。
 それから、星団中の注目するこのハスハ動乱の、このタイミングでここにやってきたフィルモアの判断を敵であるにもかかわらず褒めちぎります。
 まず前回のクリスティンの名乗りを受けて、あらためて彼女を名指ししてこちらも名乗りました。これでTVを見ている人達に、今回戦う両軍の「顔」が伝えられます。次に、「うまいっ!」とか「見事なタイミング」とか「他の国家がいまごろじだんだを踏んでるぞ」などと、解りやすく持ち上げます。
 こうやって誉めておけば、この後それに勝ったメヨーヨの株も跳ねあがるというわけです。
 元からフィルモアの騎士団といえば星団で最も強いとされているわけで、それに勝つだけでも十分に高評価が得られるわけですが、今回は指揮官がハイランダーであるとはいえこれまで全く無名だった新人の少女騎士クリスティンですから、クラーケンベールはまずそこに「素晴らしく有能である」と最初のレッテルを貼ることで、わざわざフィルモアの威信を保ちつづけます。
 口でいくら言ったところで、実際に相手が強くなるわけではありませんから、これは言えば言っただけ得です。
 そして、勝てば「あのフィルモアに」ということになりますし、よしんば不覚を取っても「あのフィルモアが相手だったなら」と、傷つく名誉は最小限で済みます。
 戦上手です。
 往年のプロレスラー・アントニオ猪木が大勝負の前になると必ず「今日は体調が絶不調だ」「スランプだ」などととインタビューに答えていたのが思い出されます。

 そしてもちろん、クラーケンベールは負けるつもりなんてさらさらありません。


受けてフィルモア

 こっちはメヨーヨ軍の絶賛アピールに対応する余裕すら無い状態です。
 騎士達は皆、緊張しまくった表情でトライトンの言葉を聞いています。まず彼等は、フィルモア帝国の最強騎士団員であるというプレッシャーと戦っているかのように思えます。過去の栄光は、そのまま、負けてはいけないという重圧です。額に揃って巻かれたフィルモア紋のハチマキが、気合を入れているという効果以上に、それを象徴しているかのようです。まさに決死。
 それぞれに小規模な内戦派兵などでの戦闘経験はあるものの、これほどの規模の集団戦闘を経験しているのは構成員の中でブルーノたった一人。なにより、大将のクリスティンは初陣なのです。
 戦の勝敗というのは戦場で決するものですが、戦前には必ず勝てるように準備をするものですし、戦が終わったら、勝ったら勝ったなりの、負けたら負けたその理由を追求します。この度の戦、もしフィルモアが負けてしまったならば……戦場での実情はどうあれ、敗因は、間違い無く初陣の大将であると星団中から思われることでしょう。そのためのクラーケンベールのアピールであります。

 そういう空気を解っているトライトンが、これから起こる戦の中で最も重要な事を、あらためて全軍に告げます。


そしてファティマ

「この戦… 貴公ら騎士が最も頼るべきは……」

「ファティマたちだ!」

 MHを操縦するためだけに産まれ、戦の中でのみ死んでいく生体コンピューター。殺戮の妖精・ファティマ。
 MHのファティマルームにそれぞれ鎮座する、五体のファティマが描かれています。全て異なるデザインのプラスティック・スタイル・スーツに身を包んでいます。緊張している騎士達とは性質の異なる張り詰めた空気。
 凛凛しさと、美しさです。
 彼女たちはこれから起こることを、恐れてはいません。いや、戦うのは嫌だ、恐い、なんて声や表情に出して言えるファティマは星団史上でもクローソーくらいではあるんですが……。
 ひょっとしたら、彼女たちの中には、これから起こる戦争が嫌で嫌でしょうがないと思っている者があるかもしれません。しかしその感情は、彼女たちがファティマとして産まれた以上は、無いものとして処理されてしまいます。

 このシーンに限ったことではなく、FSSという作品の描く数多いテーマの内でも最大のものの一つは、ファティマという存在の悲劇とその救済です。悲しみの糸は、これから約1000年後のAKDフロートテンプル内で、まさしくクローソーが断つその時まで、紡がれていきます。

 しかしまた、このシーンの彼女たちの美しさは、その悲劇性だけが要因ではありません。
 彼女たちは、騎士から頼られています。彼女たちのMH操作補助、情報処理、戦況判断、指示、そういったものの頑張り次第で、愛する自分の騎士は命を永らえ、戦功を上げられるのです。これは集団戦ですから、自分の頑張り次第ではまわりで戦っている親しい仲間たちも助けることが出来ます。戦に不慣れな騎士たちにとって、経験を積んだファティマたちの判断こそが、最も信頼すべき次の一手になります。
 コミックス7巻に収録されているエピソードで、ボロボロの中古MHアパッチを駆る騎士アーレン・ブラフォードを、大好きなソープのMHと戦うというジレンマに激しく嘔吐させられながら、それでも懸命にサポートしつつ、ファティマ・京は心で叫びました。

「主に星を取らさず何がファティマか!」

 戦う彼女たちの誇りと気高さを、何者も否定することは出来ません。気高さとは、自らを省みず人の為に尽くす者を賞して贈られる言葉です。
 かのクローソーが、過去に自分の意思でただ一度MHを操縦して敵を打ち倒したのも、コーラスを守るためだったのです。

まとめ

 いつ、いかなる場面でも、仲間を救おうとする行為を「正義」と呼びます。(これの対概念は「不義」といって、人の道から外れた行為という意味です。「悪」の対概念は「善」です)
 正義という言葉は、特に政治の舞台などでは胡散臭い使われ方をされることが往々にしてありますが、僕は上記の意味以外で使われるこの言葉に出会った時はそうとう用心することにしています。あ、英語の「justice」は「公平」が適当な訳だと、英語は不得意ながらも僕は思います。justiceだけど不義なことというのは、ちょくちょく世の中にあるのではないでしょうか。
 今回のFSSを改めて読み返しながら、また現在この世界で起こっている痛ましい事態を思い、こんなことを考えていました。

 FSSという作品と出会って12年。他の多くの作品や、出来事、人物との出会いと同じように、この作品からも、僕は様々な影響を受けています。

 FSSの世界において、魔法は超帝国の遺伝子技術の果てに産まれたものであり、巨大ロボットは超高出力のエンジンを積んでいるという設定の元に、僕らの了解する物理的にもウソ無く稼動します。遺伝子技術も、ハイパワーエンジンも、僕らの知っている科学の先に想定できるものであって、限りなく飛躍に近い発想ではあっても、僕らの常識と地続きで繋がっているものです。
 魔法=不思議な力、巨大ロボット=超エネルギー動力という説明だけで、書き手が満足してしまうこともできるのに、それをしていないFSSという作品の凄さ、作者のこだわりの価値、そういうものに気がつけたのは、つい最近のことです。
 これは、目的のある作品世界を構築するためには、とても重要なことなんだと思うのです。
 「FSSはSFではない」と作者も明言していますが、あえて有名なSFの常套句にこの作品をあてはめてみます。

「SFで、使って良いウソはたった一つである」

 これはSFというジャンルに限らず、ある作品の完成度を計る上で一つの目安になるものだろうと僕は思っています。(もちろん、これに当てはまらず、かつ、完成度が高い作品は無数にありますよ!)
 FSSは唯一つ、「遥か未来の出来事である」という以外のウソは、原則として使われていません。「神様」役の登場人物以外の仕掛けは、すべてこの一つのウソに集約されて、作者の想像力の産物として説明がつきます。さらに言うなら、そうやってきちんと構築されている世界があるからこそ、その許容範囲を超える能力を持った存在が「神様」役をこなせるわけです。世界の構築が確り出来ていない物語では、登場する神様役もそれなりなものになりがちです。
 だからこの作品では、人の悲しみは、悲しみとして正しく描けるし、喜びも描かれるし、怒りも、楽しみも存分にそこに描くことが出来るのでしょうし、またさらに、それを超越する神様も描けます。効果がループして、積層し、僕らにより深く訴えてきます。

 はじめは、「わぁロボットかっこいい!」でした。次に「お話面白い!」で、それから「コンコード可愛い」「ソープ様美人~(?)」という具合に、僕はFSSという作品を楽しむようになりました。
 それから何年かおきに、生活の中で何かを学び、あらためてFSSを読むと、それはすでにそこに描かれていた、それがやっとわかった、そういう体験を何度もしています。

 この一ヶ月、やはり、FSSというのは優れたエンタテインメントで、楽しむために読むものですから、アメリカのテロ事件でショックを受けた僕はページを開く気になれず、全く触ることが無かったのですが、こうして開いてみると、そこにはすでに「人(ファティマももちろん含む)の悲しみ」が、これでもか、これでもかと描かれていたのでした。
 お話の展開として、この先はしばらく悲しみの要素を含んだ場面が続くように予想されます。FSSが優れた作品だからこそ、それを読むことを辛いと感じてしまう気持ちが、心に現れるかもしれません。
 これはもちろん、FSSや、他の戦争的場面を描く全ての作品のせいではありません!
 しかし、それを受け取る側に、楽しめない人がいるという現実は、やはりそこにあるでしょう。


 FSSに描かれているドラマの中でも、最も美しい場面の一つが思い起こされます。
 コミックスの9巻、星団初めてのファティマシリーズ・4ファッティスの一人、インタシティがハルペルとして老衰死を賜る場面です。
 彼女を慕う多くの人々に囲まれ、彼女の悲劇と栄光を共に駆け抜けたMHエンプレスとMHビブロスに見守られ、彼女は息を引き取ります。
 これは戦いによらず天に召された唯一のファティマの記録ではないでしょうか。
 人なればこそ、このような最期も訪れて然るべき。

 それでは数時間後に、「読み解け今月のFSS11月号」でお会いしましょう。
 ただいま、朝の8時です。

読み解け今月のFSS9月号 (01年8月21日)

 九月号発売から約二週間、ようやっと今月の「読み解け」に辿りつきました。
 FSSという作品の最大の属性はやはり「ロボットマンガ」であるということを教えてくれた今回の内容、さっそく見ていきましょう。


表紙

 少年のような面差しの女性のモノクロイラストです。
 直感ですが、先月号で手首だけ登場した女性騎士ナイアス・ブリュンヒルダかと思います。違うとしても、ぱっと見ジャコーやユーゾッタ、クリスティン、ダイ・グ、ズームらと同じ100歳(地球年齢で二十歳)前後のキャラクターのようですから、これから彼と彼女らの紡ぐメインストーリーに絡む人物なのではないかと推測されます。
 それにしても、これくらい足首の美しい女性が、現実のどこかに居ないものでしょうか。


最初のシーン:ワックストラックス店内にて

 今回は、一ページ、一コマごとに丁寧に見ていくのではなく、物語の流れに即したシーンごとの読み解きで行きたいと思います。これだけ遅くなっちゃったんですから、いつものように、スピード+細かさを売りにする必要はないですよね。

 戦争の中継を見て盛り上がる血気盛んな騎士達を、アイシャとジョルジュが横目で眺めています。
 騎士達は、重楷や斧で武装したAトールを実剣で次々と捌く黒騎士のデコースに感嘆の声を上げていますが、アイシャやジョルジュから見れば、スピードに勝る実剣の方が的確に敵MHの急所を大きな貫通力で攻撃できるのですから、デコースのやっていることのほうが当然なわけです。
 二人の後ろにはジャコーと三条香が無言で控えています。元々、ワックストラックスのマスター、ジョルジュ・スパンタウゼンはジャコーが現団長を務めるイオタ宇宙騎士団の騎士なのですから、この繋がりも当然です。
 ジョルジュが店を閉めてまでついてくるかは解りませんが、この後、アイシャとジャコー達が行動をともにする可能性は高いと思われます。ジャコーもアイシャもミラージュ騎士で、ミラージュの所属するAKDは表向きこのハスハ動乱を静観することになっていますが、実際にはこのように個人レベルで多くのミラージュがハスハ入りするようです。

 ところで、六コマ目のアイシャの背景で基本的なマンガの表現技法であるところの「カケアミ」が使われております。中学時代にひたすらこれをやった経験のあるてなしもは、なんだか懐かしかったです。
 こういった技法で表現される、終盤の、晴れ渡った大空の元で軍事国家同士の主力軍団があいまみえるシーンと、この暗い地下の酒場のシーンの明度の対比が面白いです。


二つ目のシーン:アララギ・ハイトの脱走

 顔はカイエンに似ているものの、騎士としての能力はてんで低く、おまけに性格も悪そうな騎士警察アララギ・ハイトが、ハスハで起こっている大乱戦のニュースを聞いて、戦に乗じて一旗上げてやろうと職務を放棄して脱走します。
 単騎で大国の騎士団を相手に大暴れするデコースのニュースは、こんなふうに星団中のあちこちで、野心ある若者達に火をつけてしまっているのです。
 このハイト、このあと意外な活躍をするらしいので要注意です。


三つ目のシーン:バキン・ラカン帝国の参戦

 ところを夜のバキン・ラカン帝国に移して、展開されているのはハスハの危機を救うべく騎士団を派遣したいと申し出る騎士団長ママドア・ユーゾッタと中立を守ろうとする若き聖帝ラ・シーラの押し問答です。
 何かにつけてまだ未熟であるとまわりの人から評価されてしまうラ・シーラは、今回も母親の前聖帝ミマスの助言を丸のみする形でユーゾッタの出陣を許してしまいます。なんだか頼りないぞ聖帝。
 騎士の登録と任命を司る、ある意味で星団でも最も権威のあるお人なのですから、おそらくはこの後、成長を重ねていって立派な人物になるのだとは思いますが、現時点では立場に振りまわされる子供そのもののように感じられます。がんばれラ・シーラ。


今回の最終シーン:大平原に展開するメヨーヨ朝廷軍と、フィルモア精鋭軍の対峙

 さて、今回の目玉シーンです。
 まず紙面に登場したのは、なんだか凄いことになっちゃってるクラーケンベール・メヨーヨ大帝です。コミックス六巻でファティマ専用の超高級売春宿の迷惑客などをしていた彼ですが、美少年顔はそのままに、髪は当時以上に半刈り、戦の興奮がおさまらないのか目蓋から額にかけてのイレズミはまだくっきりと浮かび上がっていて、オマケに鼻の下には細い二本のドジョウひげです。
 狂気を孕んだ武人の性とこのカブキっぷり、日本の戦国時代の雄である織田信長を連想させます。
 その戦闘力はさすがに確かなもので、ナカカラ王国国境の防衛騎士団を苦も無く粉砕した様子です。MHから降りてこれからの戦略を、指南役と思われるパイドル卿と相談しています。このパイドル卿というのは、やはり初代黒騎士ツーリ・パイドルの血筋の者なのでしょう。二人の背後には、メヨーヨ朝廷が正式採用したというドラゴントゥース抜きのMH新型アシュラテンプルと、そのスペシャル版にしてクラーケンベールの専用機、ブランベルジュテンプルことMH姫沁金剛。
 なんだかものすごくあてずっぽうな作戦を立てて、クラーケンベールは進軍を指示します。これが許されるだけの実力をこのメヨーヨ朝廷軍が持ち、また、そういう指示がゆるされるくらいにクラーケンベールは兵達から支持されているということがわかります。
 と、そこの前方に「超ド級エネルギーフィールド」が発生します。
 大軍団のテレポート・アウトです。
 発せられるエネルギー波を集めて、敵の割り出しを行うクラーケンベールのファティマ・アンドロメーダが、あることに気が付いて絶句します。敵は、わざわざテレポートの母船から星団識別信号を発信してきたのです。
 思わずクラーケンベールが「相当でかいぞ!!」と声を荒げます。「来た! どこだ!!」
 アンドロメーダが叫びます。
「フィルモア帝国ですっ!!」
 テレポート・アウトの光の中に、細く、昆虫めいた、殺傷力のカタマリのようなシルエットが浮かび上がります。

 右肩に、その歌声で船乗り達に死を呼ぶ海の魔物サイレンの図案が大きく描かれ、全身の各部には、レーダー王家の紋章であるウォータークラウンが刻印されています。
 轟音と共に右足を前に踏み出し、姿勢は低く、右手の黒い長剣は横に伸ばされ、左手の盾と一体化した短剣は、これも前に向かって斜め下に突き出されています。
 正視することもままならぬ光の中から歩み出してきた、これがフィルモア帝国最強MH、Vサイレン103・ネプチューンです。

 その後ろには、長大なポールに大きくフィルモアの紋の刻まれた旗をなびかせる、重MHアルカナサイレンのハートとダイヤが従い、そのさらに後方には、ざっと数えても40騎近い、重装甲のサイレンD型が長大なランスを天に向けて陣形を築いています。

 この大迫力の軍勢に、さしものクラーケンベールも「フィルモア帝国とは……」と冷や汗を垂らします。続けて「これは願ってもない……」と来るところが、さすが大帝と申せましょうか。
 パイドル卿も、まさか皇帝騎Vサイレンがいきなり前線に投入されるとは思っていなかったようで、かなり慌てています。
 皇帝騎Vサイレンは、103ネプチューンと104プロミネンスの二騎があり、そのどちらかにフィルモア皇帝が、そしてもう一方には皇帝と同権力をを持つ皇帝代理騎士ハイランダーが騎乗しています。

 美しいブロンドを獅子のたてがみのように広げた美女、クリスティン・Vが、クラーケンベール・メヨーヨ大帝に対して、ハイランダーとして宣戦を布告します。
「引かぬ場合はフィルモア騎士団がお相手いたす!」
 この時点で、フィルモアがこのハスハ動乱においてどこまで自国の野心を満たそうとしているかは解りませんが、とりあえずこの場面では、フィルモアはハスハの味方となりました。
 サイレンのコクピットから立ち上がり、見栄を切る下着姿のクリスティンの勇ましさよ。
 このまま行くなら、クリスティンとユーゾッタも同じ陣営に所属することになりますから、二人のファンとしてはほっと一安心です。

まとめ

 今回の内容は、もう「ネプチューンの登場シーンの格好良さ」これに尽きるでしょう。
 ロボットはやはり、止め絵で見栄を切ってナンボです。今月号を見てしまうと、ぐっと構えて相手を睨みつける姿勢で心を震わせてくれないようなロボットには、お金を払う気にはなりません!

 手短ですが今月はこれにて。
 すぐに十月号の読み解けでお会いしましょう。

祝・剣聖スキーンズ再登場(一コマのみ)

 今更繰り返すのもなんですが、本当にFSSというマンガは面白いと思います。
 今月もそれを再確認させてくれた内容の読み解きに、さっそく参りましょう。
 ちなみに、本来ならばこの「読み解け」はWeb上で最速のFSS感想文を目指すというコンセプトなのですが、今月号に関しましては、あるやむを得ない事情があってこうして数日遅れになってしまったことを、ご報告申し上げます。
 近所でバーチャファイター最新作のロケーションテストが始まってしまったんですもん。
 所持金がすっからかんになっていなかったら、今日もこの更新してなかったと思います。


表紙

 今や本編以上の大人気と言われる「がんばれESTちゃん」第三回が堂々の掲載です。いつのまにか専用のロゴも出来ております。
 エスト、アイシャ、そして作者のPSOのキャラクターであるS.I.Lの三人で、どつき漫才をしながら作者の近況を報告してますが、今回の内容は、やはりここで告知されている「FSSロビー」に積極的に参加させていただいている僕としては楽しいことこの上ないものです。
 この場を借りて僕からも、どうぞ興味のある方は、04シップ-08ブロック-08ロビー、通称「FSSロビー」に気楽に遊びに来てくださいと、宣伝させていただきます。
 特に、「はじめてDCを買いました」「はじめてオンラインに繋ぎました」という方には最適のロビーだと思いますよ。

 と、PSOの話題は止まらなくなってしまうのでここまでにしまして、中身の方へ移ります。しかし、右下のコマの永野先生の描いた「キャス子」は貴重だなあ。


最初の見開き

 ページを開いて最初に目に飛び込んできたのは、左側のページの大ゴマで美しい女性の肩を抱く美丈夫でした。僕は思わず万歳三唱。
 すみません、またまたPSOの話題になってしまうんですが、このゲームで僕がメインで使っているキャラクターの名前は、こちらの超帝国の剣聖からいただいておりまして、「SKINS=Tena」と名乗っています。以前から「スキーンズが連載に再登場しないものかなあ」と祈っていたものですから、念願かなって嬉しさのあまり小躍りしたのでした。

 さてさて、もういい加減脱線は止めにしまして、この見開きを読んでいきます。
 ここで語られているのは、カイエンは子供を作ることが事実上不可能だったという事についてです。
 カイエンの両親はどちらも超帝国の純血の騎士であり、父はその中でも最強の騎士アサラム・スキーンズで、母も黒騎士団団長にしてドラゴン達と超帝国との歴史的和解の橋渡し役をしてのけた伝説のヤーン・バッシュ王女です。そんなあまりに強力な両親の染色体を受け継いだものですから、カイエンの染色体もまた非常に強力であり、普通の卵子ではカイエンの精子を受精した段階で破壊されてしまうか、母体が拒絶反応を起こして体外に排出されてしまいます。
 ところが、マグダルとデプレは無事に誕生しています。二人は、無事にこの世に産まれ出るため、その力を抑えて普通の胎児として成長したのでした。二人は母の胎内にいるうちから、お互いを励ましあって、支えあって生きてきたわけです。
 そうして、普通の双子として誕生するはずだった二人が、しかし、生まれた瞬間に超帝国の血が解放された、強力な騎士とダイバーの素質を持つ双子になったのだと、コンコードの残したヤーボの体の記録を調べたミースが語ります。

 この部分、ちょっと考えてみます。
 普通の子供として産まれるはずだったマグダルとデプレが、ミースにもわからない理由で、そんじょそこらの騎士やダイバーどころではなく、超帝国の血に目覚めた特別な人間になってしまいました。
 ミースの医師としての能力は、Drバランシェの後を継げるほどの超絶的なものであることはすでに語られています。そのミースにすら判らないのですから、これはすでに、人知を超えた何らかの力の干渉の行われた出来事と考えるのが自然です。
 おそらくは、後に星団中へ災厄の種を蒔くボスヤスフォートと戦い、これを制するために二人の力は解放されたのでしょう。ボスヤスフォートの覇道を、抑えたい立場の人物といえば、はたして誰であるか。で、考えてみますと、二人の両親であるヤーボとカイエンの出会いの遠まわしの原因に、コミックス三巻ラストでのムグミカ王女の言動があります。ここで暇を出されたヤーボがカステポーへ行き、顔なじみだったらしいカイエンと再会して、深い中になっちゃうわけです。
 ということは、あの時ヤーボにカステポー行きを薦めたムグミカの言動は、すべてアトールの神女としての計算に則ってのものだった……
 いえいえ、この考えは少々無粋に過ぎるというものです。
 確かに、アトールの神女たるムグミカ王女の進言が無ければ、ヤーボはハスハで謹慎を受けたままそれからしばらくを過ごし、今回の動乱にも一騎士(もしくは騎士団長)として参加、そしてただ討ち死に、なんてことになっていたかもしれません。
 しかしながら、ムグミカからヤーボに与えられた使命は、一生を塔の中で、籠の鳥のように過す王女に代わって、その目となり、その心を持って世界を検分し、見たもの、出会った人々のことを王女に伝えるというものでした。
 同じ女として、世界を見てきて欲しい。これは、アトールの神女ではなく、ムグミカ・ラオ・コレットという女性の、心からの願いだったのだと思います。だからこそ、その言葉に心を打たれたカイエンは、珍しく自分からヤーボに身の上話をすることになり、その話の中に登場するミースとヤーボの間にも縁が生まれ、それはやがてミースがハスハに協力するようになったのとも無関係とは言えないでしょう。そしてそれは、カイエン自身のハスハ入りの時の言葉である「ヤーボのかわりに腕となり目となろう…」に繋がっていきます。
 これほど多くの登場人物の、こんな細かな心情の機微まで、遥か太古の皇帝なんぞの計算づくであってたまるものですか。これは逆に、いかなる形であれ、この時代に、ボスヤスフォートと戦うことのできる能力を持った何者かが必要とされることだけが予想されていて、たまたま、カイエンとヤーボの間の子供にその白羽の矢が立ったと考えたほうが良いのではないかと思います。
 ものすごい潜在能力を持った二人が、たまたま双子だったおかげでお互いを支えあうことが出来て、たまたま無事に産まれることが出来た。そこに、両親の遺伝とは別の要素で、とてつもない力を発現させられた。マグダルとデプレに秘められた力の秘密とは、こういうことなのではないかと、僕はここで推論しておきます。
 マグダルとデプレを中心に据えた話というのは、本格的に語られるのはまだ少し先になりそうですから、この推論が良い所を突いているのか、全くの見当はずれなのか、定かになるまでしばらく楽しみに待ちたいと思います。

 さて、引き続きカイエン自身の話です。
 ここで、もう一つの純血の騎士の血統であるスバースの事が出来てます。スバースの血族というのはたくさん居て、慧茄、ディモス・ハイアラキ、ピックング・ハリス(スパーク)、マロリー・マイスナーなどなど、強力な騎士が名を連ねます。
 このようにスバースが星団に血を残せたのは、リチウム・バランス博士と、その時代のアトールの神子によって、血の力を弱められたからだそうです。しかし、カイエンは血の力も弱められていない上に、そもそもその血は超帝国でも最も強力な血統のものだったりしたわけですから、自然に子供ができないのは当然、といえるほどだったわけです。試しに調べてみましたが、この「スバースの血の力を弱めたアトールの神子」が誰なのかは特定できませんでした。名前がわかっている範囲では、五代前のアトールの神子であるエダクダか、年代的にはさらにその前の人物あたりがそうであるように思えます。
(ところで、これは全く本筋から離れる話ですが、僕がこの文中で使っている「神子」という言葉は、コミックスでの表記に準拠しています。今月号での表記は「巫女」になっています。)

 う。まだ右側の一ページ目だったんですね。やっと左のページに突入します。
 背景にうっすらと、おそらくジェットドラゴンと思われる巨大な存在のシルエットが浮かぶ大ゴマで、我が子を見守る母のような優しい眼差しのヤーン・バッシュ王女と、その王女を見詰めて肩に手を置いている剣聖アサラム・スキーンズです。
 ここで、カイエンの本当の名前が明らかにされています。一万年以上も昔に、炎の女皇帝が「カイエン・バッシュ・カステポー」の名を、ヤーン王女とスキーンズの子供に贈っていたのでした。
 ここで一つ定かになったのは、「カイエン」の名の由来です。現時点ではハスハのアルルが所有し、のちにマキシの手に渡って別次元にてその威力が発揮される謎の大太刀「懐園剣」のそもそもの持ち主はスキーンズであったといいますから、おそらく、その大太刀の伝承者という意味で、子供にカイエンという名前が与えられたのでしょう。AD世紀から伝わる大太刀の名前と現代の剣聖の名前が一致する謎が、これで解けました。スキーンズはどうやってこれを手に入れたのかという謎がまだありますけど。
 また、カイエンに「バッシュ」の名前が与えられていたというのは、ちょうど今、カイエンの居るハスハ王宮へデコースの駆るMHバッシュが襲いかかっているということで、歴史の皮肉を感じます。

 さて、ここでまた少し、わき道に反れます。これまた余計な思考実験です。
 剣聖スキーンズは身の丈2.5mだそうです。人間の骨格と、それを構成する主な物質であるカルシウムの性質を考えると、人間型の生き物は身長3mになった時点で腰からポキリと折れてしまうそうです。2.5mでも、ちょっとあぶないかも?
 そして、騎士といえども、当然、普通の体をした人間の親から産まれる者がほとんどなわけですから、その肉体を構成する物質も僕らと大差あるはずはありません。多少大食いだとしても、騎士は僕らと同じ物を食べてるわけですし。
 しかしながら、現在地球上で行われている主なスポーツの中でも最も運動量が激しいと言われるバスケットボールの、その最高峰NBAの一流選手の中には、均整の取れた2.3mほどの巨体をブンブン振りまわして信じられないほどの高さに飛びあがったり、フェイントをかけながらコートを走り回ったりしている人達が、何人もいます。
 この2.5mという数字は、MHの関節部分の構造一つにも嘘を吐かない作者の、リアリストな部分の現れのように思います。
 遺伝子改造や薬品の投与等の処置が取られるわけですから、僕らの知っている常識に当てはめる必要は本来は無いわけですが、そういう処置が行われた上での、2.5mという身長は、大きくて強くて動きの速い人間の、極限の数字として直感的に正しいなあと、僕は思いました。
 何度も、何度も繰り返し述べられているように、騎士も人間です。その超人的な肉体も、極限の部分では、人間という檻に閉じ込められているのではないかと僕は受け止めています。
 身体性の限界も、人間らしい心も、彼らは備えていて、だからこそ、まだ受精卵の状態でしかない我が子に、尊敬する皇帝から名前をいただき、それを地上に残して旅立たねばならなかったとき、王女は涙しています。コミックス9巻の185pです。

 戦争は国家の一大事ですが、出生の秘密もまた個人の一大事です。戦の轟音と石礫の飛び交う中、二人の会話は続きます。


二つ目の見開き

 最初の見開きの最後のコマから話題を引き継ぎますが、カイエンの体の秘密に関する驚くべきミースの発言です。
 抗体、超帝国のDNA、ループしたDNA、胸腺と、人間の生命活動の根底にかかわる部分からの、カイエンの特徴があかされます。しかし、これらの難しい用語を一つ一つ考察していく必要はありません。ミースがわかりやすくまとめてくれます。

「それはファティマの能力!」

 ジョーカーの人々の寿命は300年程度であるはずなのに、カイエンはすでにそれを遥かに越える年数を生きています。カイエンの強力な受精卵を宿し、いわゆる「代理母」として健康にカイエンを産み落としたファティマ・クーンから、カイエンは様々な老化現象を抑えるファティマの特質を受け継いでいたのでした。
 コミックスの6巻、星団歴2992年の時点で、カイエンはラキシスに、自分の母親はクーンで、そして「ついにボクの父はわからずだったヨ」と告げています。確証はありませんが、ひょっとしてカイエンは今この時、はじめて自分の父と母の名を知ったのではないでしょうか。さしものカイエンも、ぽつぽつとしか返事を返せません。一方ミースは、カイエンに、カイエンがどうやってこの世に生を受けたのかを説明し終えてから、自分も、カイエンの子を産むために、同じ方法を取ったと言い、それから涙を零し、声を荒げます。
 好きだから、あなたのことしか考えていないから、誰よりもよく、あなたのことを知っていたかった。
 カイエンの精子を受け止めるために、まずミースは自分の卵巣に「MAXIMUM」のプログラムが埋め込まれた卵を産むための特別な処置を施しました。そして、アウクソーの体にその卵巣を移植して、冷凍保存されていたカイエンの精子を受精させます。
 真っ黒なシルエットに、虚ろな瞳だけが浮かぶ、そら恐ろしげなミースがこう呟きます。

「その状態で 卵は10年間も 寝かされていたのよ……」
「なぜって? 私の体がね… なじむために…」


三つ目の見開き

「そうよ…… 私の子宮はファティマ型のものに取り替えてあるの でないと この子が成長できないから」

 ミースがハスハ入りしたのは20年前の星団暦3010年です。はじめの10年は、おそらくカイエンという騎士の解析に費やされ、そして10年目にアウクソーへの細工によってカイエンの受精卵を入手し、それから自分の体内にファティマの子宮を移植して、それが体になじむまでさらに10年間。
 そこに受精卵を移植して、今、ミースの胎内にはカイエンの子がいます。
 自らの体と下腹部を抱くミースの後ろには、若き日のDrバランシェが影の様に立ち、己の狂気の後継者を頼もしげに見下ろしています。Drバランシェの最後の狂気、46体目の作品「MAXIMUM」はここに息づいているのです。

「星団史で初めて産まれる シバレースが 今、ここにいるわ……」

 この発言を読んでやっと気が付いたんですが、「シバレース」という言葉は騎士の尊称として使われる言葉なんですね。ジョーカー星団では、ファティマのみならず、騎士もまた尊敬されるだけでなく、差別の対象になることが多いようです。そんな中で、クリスティンやミラージュの騎士達のように、大きな運命までを背負ってなお騎士として戦う人々に、敬意を込めて「シバレース」という呼びかけが使われるのだと思います。って、これに気がついてなかったのは僕だけでしょうか。今まで、いろいろなところで、いろいろな人が、騎士のことをシバレースと呼ぶのを見て、なんだろうなあと気にかかってはいたんですが、あんまりよく考えたことがありませんでした。

 さて、そんなミースを見て、うつむいたままにカイエンは、ミースの狂気を言葉で指摘しつづけます。ミースは「いいの!」と逆上し、命を救った者は、救われた者に対してその後の人生に責任が発生するという内容の言葉を、ぽろぽろ涙を零しながら叫びます。あの日、レジスタンスの村で撃たれて死んでいたはずの少女を、助けたのはあなたなのだから、と。
 その発言を受けて、カイエンが光剣を抜きます。
 光剣であるにもかかわらず、片刃で、反身が付いているように見える、これはコミックス4巻の口絵の、カイエンがFSSにイラストとして初登場したときに下げていたあの黒い光剣ではありませんか。
 ミースはとっくに覚悟を決めているようです。瞳を開ききったまま、もう、最後まで言葉を紡いでしまいます。
 自分は心からカイエンのことを愛しているつもりだった。だから、その子供を欲しいと思った。しかし……


四つ目の見開き

 本当は、研究者として、超生命体を生み出す研究を完成させたくてこんなことをしてしまったのかも知れない。
 そのうち、それがわからなくなってしまった。
 もうミースは、何も隠していません。今までこれほどに叫んできたカイエンへの思いさえも、己の研究を正当化するための自分への偽りだったのかもしれない、という告白です。人の命を弄んでいるのは、自分かもしれないと、まさしく自分が殺されることさえも肯定した呟きのように思えます。

 そこへ、王宮の目の前のMH戦で弾かれた、敵MHの壁のように巨大な手斧がうなりをあげて飛んできました。
 それを片手の光剣一振りで真っ二つにし、ミースを守るカイエン!
 抜かれた光剣は、やはりミースを守るためのものだったのです。
 そんなふうに、事も無げにカイエンが見せた超剣技に、ミースの胎内のマキシが微かに反応しています。のちの剣聖マキシがはじめて知覚した外部情報は、この父親の剣技だったのかもしれません。
 カイエンは、どこまでもカイエンで、あの時レジスタンスの村でミースやアトロポスを救ったように、今回も変わらず、美しい婦人のために戦います。

 ミースに、カイエンの黒い光剣が託されます。このように騎士が誰かに剣を託す場面は、今までこの作品の中で何度も描かれてきました。
 コーラス三世、ファティマ・ウリクル、シャーリィ・ランダース。いずれも、その騎士が命を失うことを覚悟した場面です。
 泣いてすがるミースの首筋に優しく手を当てて気絶させ、剣聖は戦場に赴きます。
 コミックス4巻に収録されている、カイエンの初登場エピソードは、星団最強の剣聖であるはずのカイエンが、不意打ちにやられて最愛のパートナーを失ってしまうという内容のものでした。戦場では、剣聖にすら、一つの命が守れないことがあります。それは、剣聖自身の命に関しても、同じ事が言えるはずです。


五つ目の見開き

 場面が変わりまして、デコース&エストの駆るMHバッシュ・ザ・ブラックナイトの最前戦です。
 前回に引き続き、エストからこまめに情報を受けながら指揮官として的確に指示を出しています。
 ハスハ側も、お馴染みのマイケル・ジョーイ・ギラがハスハ名物の戦闘用の薬物の使用による血管の浮き出た仲間と共に、状況分析と今後の戦況の予想を行っています。
 そのハスハの騎士達も唸らされるほどに、デコースの黒騎士は驚異的な強さを発揮しています。


六つ目の見開き

 またもや場面が変わりまして、今度はハスハの遥か上空、大気圏の外で実況を続けている放送局の音声による、ハスハ各地の戦況レポートです。戦争がエンタテインメント化されています。
 ハスハ中部のナカカラ王国国境沿いに軍を展開していたクラーケンベール大帝のメヨーヨ朝廷王宮騎士団が進軍を開始し、また、ハスハ・ギーレル王国にはジャスタカーク公国のMHシャクターの一群がエア・ドーリーから投下されています。
 ジャスタカークの騎士団は、騎士の中の騎士と呼ばれる天位騎士アイオ・レーンが騎士団長を務めており、そのMHグルーンもハスハの地に豪快に着地しております。おお、まさしくこの二本角はグルーンです。ここから放電して来るのです(それは『エルガイム』だ)。
 『ナイトフラグス』によると、ジャスタカーク公国は過去、ハスハの一部を領土としていたことがあり、その後奪い返されたものを、今回また奪い返そうということのようです。
 ハスハというのは星団中でも有数の大国ですから、他国とのしがらみもまた膨大で、一度戦乱が起こるとこのように様々な目的を持って他国が動くわけですね。
 最後のコマでは、また別の騎士団が数騎のMH青騎士を降下させようとしています。


最期の見開き

 初登場の女性騎士が、こちらも初登場のMHを起動させています。起動スイッチの横に「-SIREN-R 3021」とあります。
 3021年と言えば、三ヶ月ほど前に発売されたこの作品の連載15周年を記念した増刊本「FSS ISSUE」に載っていた、ピープルカレンダー・ジョーカー3021年4月版が思い起こされます。(このピープルズカレンダーで一回読み解きをやっておこうと思っていたのですが、もう遅くなってしまったようです。うーむ)
 ありました。どうやら、この女性騎士こそ、5月号の読み解けでスパークの別名かも? と無責任に扱った三ツ星傭兵騎士団のナイアス・ブリュンヒルダです。あきらかにあのスパーク(ミス・マドラ?)とは別人ですね。パートナーは、ここに名前の出ているジゼル。あ、ジゼルってバランシェファティマだったような気が。
 いつぞやのアルルのように、傭兵の強さを大国の騎士団に見せ付けてやろう、というような内容の発言をして、その初陣のMHを発進させます。
 ひどく細身の、どこと無く禍禍しいシルエットに、大きな鎌と二本の角。これは、連載再開の五月号の表紙を飾った、あのMHではあるまいか。これまた、シルエットだけなのにため息が出るほど美しい騎体です。設定資料集の『ナイトフラグス』でサイレンR型というのを確認してみますと、……載ってません。ぐうう。
 しかしこのMHは、「重帝騎ファントム」だろうということに今までの「読み解け」ではしてきてありますので、今回もファントムということで行きます。
 で、こちらのMHファントムですが、ISSUEによれば三ツ星傭兵団のオーナーなる人物からの届け物だそうです。それが誰なのかと考えてみたとき、どこかで聞いた「ファントムは二騎あるらしい」という情報が思い出されました。もう一人、ファントムに乗ってやってくることが公開されている人物、それは元剣聖・恐るべきおばあちゃまの慧茄です。大きな傭兵団というのは大国がバックにいていろいろと援助していることが多いそうですから、この三ツ星傭兵団というのはフィルモアか、もしくは元剣聖にして元フィルモア皇帝であるところの慧茄の莫大(と思われる)な資産から援助を受けているのではないかと、推測します。
 あと、よくは知らないんですが、このナイアスのしている腕時計、ものすごい高級品ではないでしょうか。アクセサリー一つ見ても、AKD入団前のブラフォードの貧乏生活とは大違いです。同じフリーでも、バックがあるか、無いかの差かと思われます。

 左側の最後のページに入りまして、まずは戦況を知らせるTVを見詰めるアマテラス、ラキシス、そして……これは、パナール・エックスですね。
 ブラックスリーの襲撃にあって胴体をまるごと吹き飛ばされてしまったリィ・エックスは、やはりあのまま亡くなられてしまったようです。
 三人とも、非常に楽そうな服装でリラックスしていますが、やはりTVの向こうから伝えられる戦乱の様子に表情を曇らせています。ただの視聴者と違って、仮にも星団トップレベルの大国の国家元首なわけですから、何かしら戦を止める手段があるのではないかとラキシスは問い掛けるのですが、アマテラスはやや冷たい表情で、それを”歴史”と人は言うのだと答えます。
 ちなみにこの場面でアマテラスが着ているTシャツのプリントは、僕のマウスパッドとお揃いです。

 同じ頃、遠く離れたカステポーのバー、ワックストラックスでは、ルーマー国の女王位を戴冠して身軽に動けなくなったはずのアイシャが、どうやら相変わらずお忍びでこの地を訪れ、バーのマスターであるジョルジュ・スパンタウゼンとハスハの戦況中継を見ているのでした。

「こんなものを一日中放送されちゃあ 星団中の騎士は我慢できないよね」

 アイシャが更なる戦況の拡大を予想したところで、次号に続く、となりました。

まとめ

 今月号も非常に見所の多かったのですが、その中でも特に注目したのは、カイエンがミースを守って、飛来する巨大なMHの手斧を真っ二つにするシーンです。
 ひさびさに、カイエンが剣聖の凄さを見せつけたこのシーンは、僕らのような以前からのファンにカイエンの格好良さを再認識させてくれると共に、まだこの作品のファンになって日の浅い方や、今月号ではじめて触れたという方にも、そうとう印象に残る場面になり得ているのではないでしょうか。
 以前にも書きましたが、この作品の素晴らしい部分の第一は、現時点で連載がまだ続いていることです。三国志も源氏物語もガリア戦記もこの点においてはFSSに劣ります。連載が続いている以上は、常に新しい読者の視線に晒される機会があるわけで、この作品は常にそういう機会に新しい読者を獲得しつづけるだけのポテンシャルの高い魅力的なシーンを提供しつづけてくれていると思います。
 これだけ長く続けば、ずっと読んでくれている常連向けに特化した内輪受けだけの話にしてしまいたいという誘惑も普通はあるはずなんです。しかし、この作者は逆に、まるでそんな常連を切り離すかのような態度を時折見せ、僕らはそこに必死でしがみ付かざるを得ませんから、結局、常に新しい読者のような気持ちで作品と向き合うことになります。これこそが、僕らがこの作品に魅了されて止まない理由なのかもしれません。

 来月号もそんな、新鮮な感動が与えられることと思います。
 作者は、必ずしも僕らの見たいものを描いてくれるわけではなく、僕らの想像を超えたところにある魅力的なものを、僕らの想像の外からぽん、と視界に放り込んでくれるのです。
 これも一つの、送り手と受け手の理想的な関係だと思います。

わっくわく

 一日遅れました。ごめんなさいまし。


三つ目の見開きの続き

 黒騎士とエスト、そしてヨーンに思いを馳せたところまででした。
 考えてみれば、黒騎士というのはFSSという作品の冒頭をLEDの相手役として飾り、しかも、それがFSSという作品の「エンド・エピソード」でもあるとされているわけですから、ある意味ではLEDと同等にFSSを象徴するキャラクターなわけです。
 この第六話でも、ヨーンとエストにまつわる話は魔導大戦と並んで物語の中心に据えられるそうです。すでに短くは語られたエピソードですが、はるか未来のジュノーにも、モンド・ホータスという黒騎士が登場します。
 そもそも「黒騎士」という言葉だけで相当に格好良い印象がありますが、それをここまで具現化している作品には、ほかにお目にかかったことはありません。

 さて、バルンガ隊長(このころにはもう”隊長”ではないでしょうけど)が、「ミス・マドラ」に声をかけます。敬語です。
 誌面から読み取れる少ない情報から考えてみますと、バッハトマの侵攻によって一度崩壊したハスハ王宮の人々が、ミラージュやクバルカンの力を借りて今まさに王都ハスハントを取り戻さんとしている場面なわけですが、そういった立場上、手伝ってくれているミラージュ騎士には敬語になるのも道理、といったところでしょうか。
 マドラがバルンガに請われてマキシを抑えにかかります。
「皇子の言うことを聞けば、この私から剣聖の称号を渡そう! 欲しかったんでしょう?」
 マドラはほぼ間違い無くスパークなわけですが、どうやらこの時代、剣聖の称号はこのスパークが持っているか、もしくは預かっている、そういう立場なようです。
 コミックス十巻でデコースがスパークのことを「慧茄の出来損ない」と罵るシーンがありました。慧茄自身がスパークのことを「すごい騎士になっている」と評したこともあります。超帝国直系のカイエンや、その上をいく(と思われる)マキシをのぞけば、スパークが慧茄から剣聖を継いでいるというのも納得できるところです。
 そして恐るべきは、騎士として強い盛りであろう年齢と思われるスパークをして、まだかなり幼いにもかかわらず、剣聖を譲ってもよいと思わせてしまうマキシの戦闘能力です。それはまだ誌面には描かれていませんが、次のコマからのスパークのセリフは、マキシの能力と性格を想像させ、読者を震え上がらせるに足るものでした。

「これはゲームだ そなたの母上を殺さずに城を制圧する!」
 ハスハの復権がかかった一戦も、マキシにはゲームと理解させるほうが都合がよいのです。つまり、それくらいに、まだマキシは物事がわかっていない。
「そうしたら君の好きなようにするといい」
 敵の城に飛び込んで、動くものすべてを殺し尽くすということです。
「ただし!!」
「ミースは殺しても 犯してもいけない! 我慢しなさいっ!!」
 なんという過激な言葉でしょう。特別に、繰り返しこう告げておかねば、マキシはそれをしてしまう恐れがあるというのです。
 これまでの部分で、マキシは一応、ミースのことを丁寧に母様と呼んでいました。しかしそれは、デプレのような母を慕う心から出たものではなく、おそらくは、まわりからそう呼ぶように教えられたからそう呼んでいるにすぎないわけです。

 連載に登場する前から、ファンの間では極めて人気の高かったマキシですが、果たして今回の初登場に際しての、恐るべきこの言動、どのように皆さんは受け取られましたでしょうか。
 設定上、かなりの”壊れた”キャラクターだろうとは想像していた僕も、衝撃を禁じえませんでした。ここ最近のキャラクターのなかでも過激さという意味では頭ひとつ飛びぬけていたスパークでさえも、声を張り上げて静止しようとしています。


四つ目の見開き

 たっぷりの毛髪を束ねるおおきなリボンが可愛らしいマキシが、「うー 剣聖・・・・・・」と、幼児の自制心を発揮している場面に、もくもくと雲のようなものがかかる演出とともに、舞台は天上世界に戻ります。
 U・R・Iやシルヴィスもいます。冒頭に出ていたシルヴィスはやっぱり本物だったかな?
 さて、この見開きの内容も強烈です。神々の会話は、いままでのFSSには登場しなかった新たな視点からのものになっています。
 天上世界のマキシは、ハスハの出来事に干渉し、心残りを清算したいようです。そして、アマテラスオオミカミはそれを制限付きで許可します。
 これはちょうど、僕らがコミックスや年表を読む感覚と同じなのではないかと思います。僕らは作品に干渉することはできませんが、そこは、一読者と神の違いです。
 この後、舞台は魔導大戦の始まる3030年へと一度時間が戻ります。そこから、今回の前半のシーンまでの四十五年間というのが、この第六話の主な内容になるようです。
 その時代を生きるキャラクターたち、それを俯瞰している神たちに、読者の視点も巻き込んで、さらにはアマテラスオオミカミは読者をも超えた視点に立っている気配をみせており、そういった何重にも入り組んだ入れ子状の構成で、いよいよ魔導大戦は幕をあけるわけです。

 マキシは「心残り」があるといい、それを「四十四分間の奇蹟」で償うといいます。
 その奇蹟の内容、いや、そもそも、その「心残り」の内容こそ、大変に気になるところなわけで、今回の話はその重要性を示唆しているわけですが、ここで僕が注目したいのは、そのマキシの干渉によって生まれる二つの歴史です。
 順当に考えて、マキシが心残りを作ってしまった歴史Aと、今回の干渉の結果それが解決される歴史Bという、二つの物語がこれから語られる可能性をもっているわけです。
 僕の知っている限りでは、ジョーカー星団でのマキシは、デプレたちと協力してハスハを開放した後に、スタント遊星にまつわる忌まわしい出来事によって死亡し、そしてタイカ宇宙へ送られていくはずです。さて、この流れは、歴史のAとB、どちらの後に連なる物語なのでしょうか?
 神が歴史に干渉をします。FSSの年表に記されている出来事は、干渉前のものなのか、干渉後のものなのか。僕の好きなタイムパラドクスものSFのようなわくわく感があります。
 まあ、おそらくは、その四十四分間の奇蹟というのは歴史の大きな流れに変化を与えるようなものではないのでしょう。アマテラスオオミカミに曰く「その程度・・・塵以下の影響もあたえますまい」だそうですから。
 「この物語が神話であることを示すため・・・」とのお言葉もあります。神話はSFではありません。科学や複雑な物語の構造といったものを通り越して、神の力を示す物語です。
 そして、アマテラスオオミカミはそれを「”ニュータイプ”の読者の方々」にも向けたメッセージとしても発しています。おお、全次元万能神は僕らのことまで視界にいれていらっしゃる。「お解りい頂けよう・・・ふふ・・・」僕らに何をわかれというのでしょうか。文法どおりなら、FSSが神話であることを、となりますが、後についた笑いが、なにかそれ以上の意味を感じさせます。
 タイムパラドクスなどという、物語をわかりにくくする構造はさすがに使われないと思いますが、僕は何か、今回の第六話では、いままでにFSSでは見られなかった物語の語られ方が使われるのではないかと、直感的に思うのです。そしてそれが登場するのが、「四十四分間の奇蹟」なのではないかと。

 それにしても、この天上世界の展開には独特の間と妙があって、実に味わい深く、読み返すたびに気づかされることがあります。
 今もふと、この見開きの最後の、目を伏せたマキシの表情に、どこか暁姫の面影を感じました。マキシが神になっていく、次元を超えた道のりの中で、いつしかその愛騎暁姫ともシンクロするのでしょうか?


五つ目の見開き

 不気味に黒い影を落とすエートールの群れを後方の斜め上から見下ろすショットに、やっと「FSS」のタイトルコールと、「#6 MAJESTIC STAND」「PART:1」「BOTH:3030」「=ハスハ崩壊=」という、時と場所、シーンタイトルが登場です。
 ならんでいるエートールのうち、先頭のものだけ装甲の形状が違います。
 肩の装甲が動かなそうなので、ひょっとしたら、ソープからカイエンがひったくってきたというエートールの装甲をつけたシュペルターかもしれません。あたまにS字のマークでも付いててくれれば確証がもてるんですが。コミックスの九巻187ページにAP騎士団のそれぞれの支隊の紋章が見られるのですが、どれがどの隊の紋章だかわからないのでどうにも絞り込めません。・・・・・・まてよ。どこかにAPの紋章と支隊名が並べてある表があったような。うう、みつからない。


六つ目の見開き

 ハスハ共和国の首都、静まり返った夜のハスハントです。一国の首都だというのに、街に光り無く人もいません。
 ハスハの騎士として僕ら読者にも馴染みの深いギラが、虚ろに夜空を見上げています。独特の心臓の鼓動ような音をたてて、臨戦態勢のエートールが佇んでいます。
「ヤーボが見たらびっくりするぜ・・・」
 ともにハスハのエースとして名を馳せた今は亡き友の名を呼ぶギラにかぶって、ラジオ(?)の中継の音声がはいります。
 二十三時間前にバッハトマのボスヤスフォートがハスハに対して宣戦を布告したのでした。
 その音声は、喋る者一人いないハスハの王宮内にも響き渡ります。
 うつむくラオ・コレット王。何かを待つように目を閉じているムグミカ。周りの様子をうかがうようなヘアード。両手で自分の体を抱くミース。サングラスに隠れて表情の見えないバルンガ。りりしい騎士に成長しているアード・ゼニヤソタ。アルルとマギー・コーターは同じ方向に視線を投げています。おそらくは、このどうしようもない雰囲気の中で、ただひとつけたたましく状況を伝えるラジオを何とはなしに見つめているのでしょう。
 大規模災害の被災者達が、無力感に打ちひしがれながらひとつところに集まっている。ちょうどそんな雰囲気です。
 宣戦布告したバハットマは、夜明けとともに衛星軌道上からMHを降下させ、王都を制圧すると宣言していると、ラジオが告げます。ハスハ側は民間人の避難を終え、王宮外苑にそれらを迎え撃つためのエートールを布陣しているわけですが、その表情は一様に暗いものです。


最後の見開き

 つま先をそろえて座っているマグダルと、その脇に立つデプレ。
 二人はまだ幼さがあるものの、りりしく成長しています。ジョーカーの年齢では、二人はこのとき三十三歳で、地球人でいうならちょうど十歳くらい。感覚的には、非常に聡明な小学生といった趣です。デプレは、日本史の古い時代、飛鳥時代の風俗を思わせるゆったりとした服装と瑞々しい髪が印象的で、ただ黙って座っているマグダルは、アトールの巫女のものなのかアトール聖導王朝の紋の入った大きな帽子とローブを身にまとい、感情の読み取れない能面のような表情を浮かべています。
 こちらも年頃の女性に成長しているヒン・モンダッタに、離宮に下がるように言われますが、それを遮るようにデプレは怒気を発します。
「何でボクたちが先に討って出られないの! このハスハが!!」
 場の空気を無視した発言をバルンガがいさめようとしますが、コレット王がそれを許可します。この場面では、まだ子供で状況のわからないデプレが読者に代わって質問をしていってくれます。
 その内容に移る前に、デプレに対するまわりの呼びかけ方に注目してみます。
 まずヒンの科白。「マグダル様 デプレ そろそろアルル様と離宮へお下りに」と、デプレにだけ「様」がついていません。これは別にヒンがデプレを見下しているのではなく、二人の信頼関係の現れだと思います。マグダルはムグミカの次にアトールの皇帝になるという、この国でもっとも高貴な身ですし、その佇まいには回りのものを寄せ付けないような、冷たさ、みたいなものがあります。それに対して、デプレはその元気のよさから推し量れるように、実に普通の、明るい少年に育っているように思います。年齢の近いヒンやアードとデプレ達が引き合わされたのが十年前ですから、それ以来、皇族と警護の騎士として以上に、非常に親しい友人や、兄弟のような関係で共に王宮生活を過ごしてきたのではないでしょうか。これはヒンからの呼びかけですが、デプレの屈託の無い性格が読み取れる部分です。
 そしてバルンガは、デプレのことを「皇子」と呼びます。以前からそう呼ばれていましたが、改めて確認すると、ハスハのエースとはいえ一介の騎士であったヤーボと、もともとはハスハに縁のないカイエン、その二人の子供ではありますが、マグダルが次期アトール皇帝にとムグミカに見出された時点で、デプレも同様の待遇を受けることになったのでしょう。デプレは、ハスハで国の皇子として扱われているわけです。

 ハスハが討って出られない理由が、コレット王の口から語られます。
 小国のバッハトマに食いつかれたからといって、先に敵の帝都を灰にしたとしても彼らは何も失わないのだと。このあたりには、大国としてのメンツなども見え隠れします。また、バッハトマの皇帝ボスヤスフォートの中枢はカステポーにあるので、バッハトマを叩いても効果がないのだと。このあたりは、さすが魔導大国ハスハ、ボスヤスフォートの正体を見抜いているといったところでしょうか。カステポーは独立自治区ですから、いくらなんでもまとめて灰にしてしまったりできるわけはありません。
 なおもデプレは食い下がります。二百騎を超えるエートール、そして二千騎の共和国騎士団のMHはどうしたのかと。今現在、王宮にはたった百三十騎のMHしかいないのです。ちなみにこのときも、デプレはコレット王を「おじいさま」と呼んでいます。ヤーボを失ってから、コレットの娘であるムグミカがデプレとマグダルの母代わりを勤めてきたという側面もあるでしょうし、また、「アトール聖導王朝」という、ハスハの地にすむ人々の「血」の中にだけ存在する国が、この国家の人々をまるでひとつの家族のようにまとめているという精神性の現れではないでしょうか。
 騎士団を王宮に集結できない理由は、敵もまた、複数の国家を動員する規模で広大なハスハの大地の全体に対しての侵攻を準備しており、それらに各連邦国家が無抵抗で蹂躙されるわけにもいかないからです。
 この状況は、すでに完全な負け戦なわけで、それがわかっているからこその、このシーン、一同の沈黙なのでした。
 ヘアードから戦況が確認されます。
 いくつものバッハトマ側の国家軍や傭兵団にまじって、クラーケンベール新大帝のメヨーヨ朝廷の軍の名も出ています。
 それらの報告を、だらしの無い姿勢で座ったままカイエンが聞いています。表情は見えず、その隣にはプラスティックスタイルのボンネットを外したアウクソー。テーブルの上には小さなグラス。場末の酒場でつぶれているロッカーといった様子です。
 そんな、暗い雰囲気のまま、次号へと続くのでした。

 蛇足。最後のページの柱に「次号、超バトル!!」とあるんですが、少年ジャンプのマンガみたいな煽りで、これはなんか違うなあと思いました。

まとめ

 前回の更新分で書きました、ハスハ開放戦の場に、名前の出ていない騎士達についてです。
 カイエンとアイシャ。この二人は、ずばりこの大戦中に命を落とすのではないかと思います。特にカイエンは、3030年の最初のバッハトマの侵攻に際して行方不明になってしまうのではないでしょうか。どうにも、このところのカイエンには死の影がちらついてしかたありません。
 古い西洋画の文法に、寝そべっている人物が、手をだらりと下げていたら、それは死者という意味である、というのがあると聞きます。今回のラストのコマの沈黙するカイエンは、ちょうどそんな風にみえるのです。
 3030年の現時点で、カイエンはハスハの騎士団長であります。もし生きているならば、四十五年後の開放戦でも先頭に立つはずでしょう。そして開放戦に名を連ねる人々は、ギラやバルンガなど、開戦時に王宮にいたはずの人物が多く、おそらく熾烈を極める戦いになるはずのハスハ王宮撤退戦では、誰かが、彼らの撤退のために時間を作ったのではないかと考えます。
 『ナイトフラグス』のカイエンの項に短くこうあります。
「『ただ生き続けること』~神々に最も難しいことを要求された男。」
 ファティマと同じく、いつ尽きるとも知れぬ寿命を持つ彼が、わが子を守るという場面に「死に甲斐」を求めたとしたら・・・・・・。わが子、というなら、ひょっとしたらマキシもこの時点ですでに生命として息づいている可能性があります。ミースの様子には変わったところは見られませんが、『ナイトフラグス』によればミースはカイエンのすべてを解析するのだそうですし、ミースとカイエンがハスハ入りして十年の月日がたっているわけですから、その解析がすでに終わっているのだとしたら、バランシェを上回る狂気の科学者といわれるミースの研究が次の段階に進んでいるという可能性も、考えられるのではないでしょうか。

 最強の騎士、剣聖であるカイエンが、戦の場で死ぬはずはないではないかと、思いがちです。
 しかし、今回の特集記事のほうで、作者は語っています。いざ戦争となれば、生き残るのは運がいいヤツだけで、星団最強などと言われている騎士でも、鉄砲の一発も当たれば終わりなのだと。リアルな物語作りに必要なまっとうな見識だと思います。それと同時に、「これから、誰かが死ぬよ」という冷酷な宣言であると僕は受け取りました。
 というところから、あまり根拠無く、重要人物としてもう一人、アイシャの死も僕は予言します。第一巻の冒頭のエピソードで語られているとおりに、アマテラスの星団制圧までには、アイシャも死ぬのです。女史はこれから、ヨーンとの関係がクローズアップされていくようですが、ヨーンはこの第六話のもう一方の主役であるわけで、アイシャは(おそらく不本意でしょうが)ヨーンのエピソードの脇役として、非常に重要な役割を果たすのではないでしょうか。
 ああ物騒だ。やれ物騒だ。


 まだ気になる部分はいくつもありますが、今号の読み解きはここまでにしたいと思います。
 冒頭で書きましたように、作者の永野先生とはファンタシースターオンラインで何度かごいっしょさせていただき、その気さくなお人柄と圧倒的なユーモアセンスに親しみを覚えさせていただくことしきりなのではありますが、今回の「いきなりマキシ登場」や「いきなり暁姫登場」といった読者への心臓よ止まれといわんばかりの攻撃、正体不明の重要人物群、消息不明の人気キャラクター達、といった演出をうけて、僕はまた身を引き締めてかからねばならないと、決意を新たにいたしました。
 この作者、やっぱり僕らを騙したり苦しめたりしては喜ぶ悪人です。決して気を許してはならないのです。
 負けるもんか。次号もどんと来いです。

読み解け今月のFSS7月号 (01年6月8日)

 物事には順序というものがあります。
 たとえば、五月の次に七月がきてしまうというようなことは、ありえないはずなんです。
 ……そんな不思議なことが起こってしまったこのコーナー、別に大した理由があるわけではないんですが、公開順が先月のものよりこの七月号分が先ということになってしまいました。
 一回飛ばしてしまったような六月号分ですが、すぐに更新しますので、どうぞご了承下さい。

 それにしても今月号も、また大変な話であります。今回は、いつものような見開きごとの読み解きで黒騎士団とハスハ騎士団の戦いの様子を見ていき、その後で、同時に語られているミースの衝撃の物語を追ってみたいと思います。


表紙

 デコース仕様のMHバッシュ・ザ・ブラックナイトです。
 二刀流で仁王様のように迫力のある佇まいです。以前に「読み解け今月(&先月)のFSS10月号の続きの続き」で扱った事のあるイラストのモノクロ版再録です。ナイトフラグスにも同じ図柄が載っています。
 ふと思ったんですが、このバッシュ、膝部分が逆関節っぽく曲がってませんか? いやもちろん、MHの可動性を考えれば、膝がある程度逆に曲がるくらいは当然ですけど。


最初の見開き

 まず上段五分の四ほどを見開きのコマです。
 前回のラストで、野生の獣のようなしなやかな姿勢でハスハの地に降り立ったMHバッシュの後ろに、バッハトマ黒騎士団のMHが無数に立っています。
 名前は出てきていませんが、コミックス九巻のパワーバランス表を参照しますと、こいつらはおそらくMHアウェイケンでしょう。右手に片刃のハンドアクス、左には星型の紋の入った盾が装備されています。
 率いるMHバッシュは、左に象徴ともいえる三つ巴の紋の入った円形の大型盾、そして右手に下げるのは少しだけ反りのついた実剣です。これも片刃に見えるので、太刀という表現が正しいかもしれません。

 下段は迎え撃つハスハのMHA・トール。すばやく指示が飛んでいます。


二つ目の見開き

 目もとの落ち窪んだ虚ろな表情を感じさせるフェイスマスクのMHバッシュのアップに、バッハトマ黒騎士団団長であるデコースの名乗りと、「今より王都を制圧する!」という宣言が重なります。
 そして、連載中ではついに初公開になるプラスティック・スタイルのスーツ姿のエストに、意外にも、といったら失礼かもしれませんが、デコースがまともな言葉をかけます。
 これ以降も何度か同様の描写が出てきますが、集団戦を束ねる戦闘指揮官として部下のMHを心配し、左のページに入って重装甲のA・トールを今から相手にするということで、注意点を説明したりしています。
 このシーンで、デコースは初陣という言葉を使っているのですが、「黒騎士」デコースの初陣であると共に、この黒騎士団の初陣であるのかもしれません。
 たとえば、僕らが鉄のパイプでも手に持って、厚いコンクリートの壁を思いっきり殴ったとすると、ひどく手が痺れます。そういうような注意をデコースはしています。感覚的に分かり易いです。
 やはりこの男、器のでかさは前から言われていましたが、将としての能力も多分に備えているようです。

 ところで、星団一美しいといわれるエストの足首までしっかり見えるあたりに作者のあざとさをうかがい知ることの出来るファティマルームのイラストをよく見てみますと、これがなかなかに興味深いデザインになっています。
 以前、コミックス九巻で「仮でじゃいん」ということでMHクルマルス・ビブロスをコントロールするメガエラのファティマルームが描かれたことがありましたが、ファティマの存在理由であるところのMHのコントロールと、プラスティックスタイルのスーツデザインは、かならずしも相性がよいとは言えないのではないかとすら思えてしまう、思考錯誤のあとが読み取れます。
 メガエラのときはボンネットの外にヘッドクリスタルが出ているという形で、そこから電波のようなものが飛び交ってMHの情報をコントロールしていたようですが、今回のエストは、ボンネットにMHからの情報ケーブルのようなものが無数に結合していて、エストの特徴でもあるヘアバンド形のヘッドクリスタルは側面あたりから情報の出し入れを行っているようです。
 そして、「未来的なデザイン」という言葉で表現できそうな、ボタンもスイッチも見うけられない透き通ったパネルに指を乗せ、エストはMHをコントロールしています。
 これらの意匠はおそらく、プラスティックスタイルが表すところの「未来感」のようなものを受けて作られたものだと思うのですが、これはどうにも、感覚的に「大きなロボットを操縦している」という表現としてはいささか力感にかけるような印象を受けます。
 以前の、ぱちぱちぱちっとキーボードを押しながら腕全体を動かすような表現のほうが、まあ、僕が好みだったというだけなんですけどね。
 むしろ、「死の妖精のおわすところ」としてはこの表現のほうが適切なのかも。

 にらみ合う両騎士団にそれぞれ前進が指示されて、次のページへ。


三つ目の見開き

 戦場から離れつつある戦艦で、おそらくデプレと思われる「始まったよ!」の叫びに、バルンガが答えます。
 MH戦だけならば、五分、五分とのこと。
 はて、ジョーカー星団では、MHの戦いというのが戦争の最終局面であるはずです。そこで同等というのなら、必ずしも負ける戦ということでもないでしょう。しかし、ハスハには明らかな敗北ムードが、戦闘の開始前から漂っていました。ならばバルンガやアルルはいかなる要素を考えて、今回の絶望感を抱くに至ったのでしょうか。
 はっきりとは判りません。現時点で判っている両者の戦力を比較するなら、数では恐らくバッハトマが勝っています。そして地の利でも、相手の王都まで戦場にしているという時点でバッハトマの優勢は動きません。でも、騎士団の質では、これは間違い無くハスハが上でしょう。メインの使用MHも星団三大MHに数えられるA・トールですからハスハが劣っているとは考えられませんし、それぞれの指揮官を比べても、デコースがいくら無尽蔵の強さを見せるとはいえ、現剣聖であるカイエンを上と見ていいはず。

 となると、戦力差は騎士の世界ではなく、もう一種の超人、ダイバーの世界がかかわっているのでは、と推論を立ててみます。
 一対一ではボスやん以外決して騎士には勝てない彼らですが、ちょっと頭を使えばダイバーパワーで騎士に勝てるということはコミックス四巻でティンが証明しています。
 いや、そういった武力ではなく、もっと総合的な、たとえば情報戦での優劣というのが関係しているかも知れません。なんせ、バッハトマはボスやんの魔道力をバックに急成長を遂げた魔法国家で、アマテラスのダイバーギルドに対抗しうる勢力であるといいます。もちろん、ハスハも魔道に関してはムグミカ王女というダントツの能力者を中心に歴史ある大国であるはずですが、ダイバーズギルドほどの力はないはず。そして、近代戦以降の戦争では、情報戦こそが勝敗を決する最大の要素であります。

 などと考えてはみたんですが、どうにも弱いような。まだ要素が足りない気がします。
 兵力だけなら互角というのは、非常に緊張感のある状況です。これからどのような要素で戦の行方が変わるのか、じっくりと見ていきたいと思います。


最後の見開き

 アウェイケンの頭部がA・トールのメイスで破壊され、また、A・トールがバッシュになで斬りにされます。
 乱戦の中、デコースは陣形を乱さぬようにと指示を叫びます。集団戦闘では、陣形の崩れから敵に付け入るスキを与えることになり、兵力の均衡が保てなくなって戦況に方向をつけます。そしてやがては以前から作者が言っているとおりの、最強騎士だろうと乱戦になれば死ぬ、という状況が訪れるわけです。
 こういった集団先頭であればこそ、兵隊は錬度の差が出るもので、そういう点ではハスハ騎士団は有数なはずですから、なおさら指揮をとって互角にわたりあっているデコースの非凡さが感じられます。戦闘の騒音で鼓膜が破れることを防ぐために、ヘルメットを装着するよう要請したエストに対して、デコースは「指揮官が視界を悪くしてどーするヨ ボケェ!」といった返事を返すほどです。

 しかし、ハスハ側はカイエンがまだ戦場に出ていないものの、お互いの戦力はまだ拮抗しているようです。この戦いの続きは、また来月ということにあいなりました。今月はちょっぴり短いです。作者曰く「今月はここまでじゃああ…すまん」。作者の大好きなゲームの待望の続編が、つい昨日発売されたばかりです。さて、来月の原稿量は、はたして。
 ちなみに今朝方も永野先生とそのオンラインゲームでしばしご一緒してしまいました。

ミースの逆襲

 では、今月号のもうひとつの重要な物語を見てみましょう。
 カイエンに安全な場所に下がっているように言われても食い下がるミースが、こんな発言をしました。

「聞いて!」
「私 自分の卵巣を アウクソーの体に 入れたの!」

 うひゃあ。
 思わず声に出して、うわーと叫んでしまいました。過去にもFSSを読んで思わず叫んだことが何度かありますが、現役のマンガで声を出すほどびびらせられるのは、僕はこの作品くらいなものです。
 最近の若い子は進んでるわネエ、くらいでは到底片付かない発言です。いくらなんでも、これは予想の範疇を越えてました。
 カイエンは一瞬の無言ののち、ミースを「てめえ」と呼びながらゆっくりと聞き返します。

「そうよ! アウクソーに お願いしたの! あなたの子供が 欲しいって!!」

 ああ、呪われし少女よ。
 その生々しい内容とは裏腹に、ミースの表情は、その姿は、願いは、あまりにも幼げです。僕らのよく知る、鉱山の村でアトロポスに教えを受けていたころの、バランシェの養子になったころの、モラードの庇護下にあったころの、あの聡明で健気なミースの面影を背負ったままです。
 ミースはカイエンが好き。年齢的に、結婚ができるようにもなっているでしょう。しかし、ミースの仕掛けたこの逆襲は、その思いは、あまりにも少女的ではあるまいか。
 両手両足をぐいっと突っ張って、涙ながらに叫びます。人間である自分は、ファティマに、ましてやカイエンのためだけに作られたアウクソーには、敵うはずがないのだと。

 あの日、Drバランシェから受け継いだ四十六例目の「作品」、超人間を生み出すプログラム。少女がそれを手にしたとき、はたしてその小さな胸の内には、すでに目の前の剣聖への思いが秘められていたのでしょうか。人より遥かに知的水準の高い彼女が、まるで年端も行かぬ少女が己の気持ちを全身全霊を込めて憧れの人への手紙にしたためる様に、その全ての能力を愛しい人の子を得るために傾けてしまったように思えます。
 最後のコマで、MH戦の轟音響く中ミースは告げます。純潔の騎士であるカイエンの精子は、卵子を破壊してしまうから、普通は血を残せないのだと。
 ならば、バランシェの伝えたプログラムを施した卵子で、それを受け止められるかもしれないと、少女は気づいてしまったのでしょう。

 やがて産まれるのは狂える最強の剣聖、マキシ。
 これは推測ですが、少女はそんな超人間が作りたかったのではない。ただ、愛しいあの人と自分の子供を残す方法が、それしか無かったから。そして、星団でただ一人、少女にはそれを可能にする能力と、立場があったから。

 先走りすぎてはいけませんね。これはまだ語られている途中のエピソードです。
 連載四月号にて僕ら読者を震えあがらせたマキシの狂気。それは、超人間を超えた超生命とでも言うべき存在であるということのほかに、この「母」の、紛れのない遺伝なのかもしれません。
 まさしく、目を離せない展開は、来月号に続きます。
 いつものとおり、ひたすら待ちましょう。


 あ、ちなみに、オンラインゲームで永野先生とお近づきになれたてなしもですが、FSSの話はほとんどしておりません。伺うのはマナー違反だと心得ています。
 はじめのころに思わず質問してしまったこともありましたが、その内容は「ウピゾナの髪の毛の色ってどんなですか?」「FSS以外の作品は描かれないんですか?」「ISSUEって、今までの五年に一度の別冊のシリーズと考えていいんですか?」くらいのものです。
 それぞれ、「軽い茶色かな。緑色とかヘンな色の人間はFSSにはいません。アイシャとかはカツラ」「忘れた」「そうです」とのお答えでした。

今年もやられっぱなし

 新世紀一発目の更新は、FSSの話ということにあいなりました。
 おそらく、今世紀中にも完結しない作品でしょうから、いち早く作者である永野護氏には延命のためのサイボーグ化手術を受けていただきたいものです。多分、最終的には23世紀くらいまで持つ体が必要になるのではないでしょうか。

 さて、空前絶後のボリュームと価格を誇った副読本『ナイトフラグス』の発売直後より、ファンの間からは一刻も早い連載再開を望む声が悲痛なまでに叫ばれ、喉から血を流したファンの屍が累々と積み上げられている昨今ですが、まだ生贄の数が足りないようで、一向にそういった希望の見える情報は伝えられておりません。いやになっちゃう。

 そんななか今月号、FSSの連載の載っていない月刊ニュータイプ誌をパラパラながめながら、「一ページ独占状態の榊さんに比べて、この大阪の扱いはなんだ!」とか「次のライダーってなんとなくガンダムっぽい」とか「野田宇宙元帥万歳」とか呟きつつ、のらりくらりと気だるい午後を過ごしておりましたら、一枚の広告ページでぴたりと僕の手と心臓が止まりました。

 ……心臓はそのままだとヤバいので慌てて動かしました。
 トイズプレスの広告のページに、「A HAPPY NEW CENTURY」というメッセージを添えて、モノトーンで印刷された、今までに全く見たことの無いMHが公開されていたのです。
 上半身だけの公開です。
 とにかく目を引くそのフェイスマスク。髑髏です。そして左右から長いツノが伸び、途中で死神の鎌のように鋭く折れ曲がっています。
 じっと見ていて思い出したんですが、これとそっくりなデザインのメカが、『マジンガーZ』にいたような気がします。
 それゆえに、こーゆーのがFSSの中でも許されるのか! というショックを受けたのでありました。
 ボディのデザインは、全体に華奢な感じで、MHというよりは永野氏が他の仕事で描いているシェル似です。「じつはこれFSSじゃなくてシェルブリッドなんじゃあ」という妄想もよぎったんですが、このロボットの肩には、ナイトオブゴールドやシュペルターのものと同じ、ナイトマスターの称号が燦然と輝いております。
 ということは、これはもちろんFSSに登場するデザインで、この騎体を駆るヘッドライナーはかなり名のある、つまり僕ら読者が知っているような騎士であるはずです。

 ここにきて、そのMHの横に、帽子を被った女騎士が、カラー付きで印刷されていることにやっと気がつきます。
 ぱっと見て名前が出てきません。しかし、どこかで見たことがあります。手に持った長ドスを肩に担いで、鮮やかなブルーのアイシャドウを塗った瞳は悠然と余所見をし、薄紫のエナメル質感のボディコン服の上から藍色のコートを羽織り、首にはチョーカーふくらはぎはロングブーツ、太腿が剥き出し。
 記憶の隅で引っ掛かったイラストを確認するため、月刊ニュータイプ誌の先月号を引っ張り出します。
 運良く、毎年恒例の豪華イラストレーター陣の描き下ろしカレンダー付録は、そこに挟まったままになっていました。
 このカレンダー、毎年最後の一枚は必ず永野氏が手がけ、しかも大抵の場合は僕らがびっくりするような仕掛けが施されているのです。数年前にプラスティックスタイルのスーツに身を包んだキャラクターがはじめて公開されたのもここでした。
 その今年の一枚、2002年上半期の日付が半年分記されているその上に、やはりこの女騎士のイラストは既出でした。並んで、スタンダードなプラスティックスタイルスーツに身を包んだファティマも一人。
 ここでまたびっくりです。そのファティマの腕には、真紅のダガー、AKDの紋章が刻まれております。このファティマのパートナーはこの女騎士でしょうから、ということはミラージュの騎士でもあるということになります。

 誰だ?誰だ誰だ誰だ?
 ミラージュで、こんな突飛なデザインのMHを駆るような、ナイトマスタークラスの、魔導大戦の時代に活躍する騎士って……。
 あ。
 きっとスパークです。
 イラストの女騎士はぱりっとしたロングヘアーで、スパークが過去に連載に登場したときは壮絶なモヒカンヘアーを長々と垂らしておりましたがそこらへんはウイッグか何かを使っているんでしょう。
 まあ違っているかもしれませんが、間違った予想を立てるのはこのコーナーの習慣のようなものでもありますから、かまわずいってしまいます。

 それにしても、なんという禍禍しいデザインのMHでありましょう。
 名前とかぜんぜん予想できません。AKDの未出MHなら、ひょっとしたら「フレーム・ハカランダ」かなとも思いますが、あれはアイシャが駆るはずですし。


 たった一ページ、一枚のイラストでも、僕らは右往左往させられます。角川書店もイイ商売です。
 ああ、はやくはやく連載を再開してください。

臨戦

 さあ、連載の再開です。
 結局、丸一年のお休みでしたが、その間にコミックスの第十巻や巨大設定デザイン集『ナイトフラグス』の発売、そして、これは個人的なことになりますが、ドリームキャストのオンラインゲーム『ファンタシースターオンライン』で実際に作者の永野護先生と一緒に遊ばせていただく機会に恵まれたりといったイベントがあったせいか、それほど長い休載であったという印象はありませんでした。
 ・・・・・・いえ、正直に申しますと、今回の再開があまりに楽しみなあまり、心の中に満ち溢れるその期待を認識してしまったら、待ちきれなくて発狂してしまうのではないかという恐れのため、「FSSの再開」というイベントの存在を意識して忘れていたというのが本当のところです。
 だからこその、シャッターを上げたばかりの書店に駆け込み、アニメ雑誌のあるコーナーにたどり着いて、待望の月刊ニュータイプ誌五月号の表紙を目にした瞬間の全身が蕩けてしまいそうな甘美な衝撃。

 それでは参りましょう。
 例によりまして、読み解きは基本的に見開き単位にて行ってまいります。


ニュータイプ誌の表紙

「あ、あんただれ?」
 思わず声に出してそう呟いてしまいました。その佇まいそのものが殺気を発しているようなダークブラウンのMH。そして、その胸元部分に立っているおっそろしく細身な女性騎士。
 二月号でちらりと姿を見せた、重帝騎ファントムとスパーク? とかちらりと思ったんですが、見比べてみるとぜんぜん違う。しかし、この髑髏を思わせるフェイスガードは、ルミラン・クロスビン設計のMHの特徴が色濃く出ていて、なんらかの関係をうかがわせてくれます。

 これです。
 読者にいきなり叩き付けられる無慈悲な新デザイン。
 最近にFSSの読者になった方は面食らってらっしゃると思いますが、ファン暦十二年の僕も同様に面食らっております。
 突き放しにかかる作者とそれにすがりつくファンという、『金色夜叉』の有名な場面のような経験をえんえんと繰り返す、それが永野先生とファンの関係なのです。
 その突き放し方に圧倒的な魅力があるからこそ、僕らはこうやってFSSをじりじりと取り囲み、何度蹴り倒されようとも、その魅力を一片たりとも見逃すまいと、目を凝らしているわけです。
 ああ、名前もわからぬ騎士とMHよ。なぜにソナタはそれほど格好良いのか。なぜにソナタはそれほどに美しいのか。
 せめてこの者達の正体を知らねば死んでも死にきれぬわい、とばかりに、中を開きます。
 すでに、この一年間蓄積していた僕の中の「FSSへの期待」というものが、たった一枚の表紙絵の謎に覆されてしまっております。


特集ページ1・クロスミラージュ(雄型)

 バケツ頭の便利屋さん、といえばおなじみのクロスミラージュ、その初公開デザイン「雄型」です。
 コミックス二巻にはディッパ博士の駆る「カルバリィC」が、そしてアイシャがアシュラテンプルと戦った「雌型」は五巻で登場していますが、ずっとその存在を予告され続けてきた雄型もついに登場です。
 半透明も、板バネも無い装甲形状は、改めて見るととてもシンプルで、ちょっと物足りなくすらあります。すでにそういった新デザインに目がなれてしまったようです。
 それでもこのシンプルな印象のMHの気になる部分を挙げるとするなら、脚部のかかとやつま先の形状でしょうか。
 ミラージュのMHといえば、LEDに代表されるその巨大なつま先からかかとにかけての、安定感のある大きなデザインが僕の印象としては強いのですが、こいつは妙にそれが小さくなっています。恐らくは、このMHの「完全な戦闘用でありながら、偵察、後方撹乱の任務もこなし得る」という特殊な用法をかなえるための、こまわりの利く設計なのでしょう。

 このページと、次のページに、大きく「嚆矢koushi」という言葉が貼り付けられています。
 手持ちの小学館の辞書で調べてみましたら、「かぶら矢」とありました。戦の開始を告げる、甲高い音をたてて飛ぶ特殊な矢のことです。まさしく、これより戦の開始です。
 ちなみに、手持ちの角川の辞書には載ってませんでした。あはは。


特集ページ2・アイシャ

 ルーマー王国の王位を継いだため「アイシャ・ルーマー女王」となったアイシャです。
 すみれ色のドレス。うーん、相変わらず、きれい、かわいい、さりげなく豪華。
 テキスト部にいろいろ面白いことが書いてあるんですが、はやく本編の読み解きに移りたいので割愛します。にげ。

表紙

 いよいよ本編です。
 表紙は非常にあっさりと、黒地に「THE MAJESTIC STAND」のロゴ、それだけです。


最初の見開き

 開けてびっくり。
 ついに本編初登場(例のシルエットクイズは除く)、FSS作品史上最強の個人、マキシです。
 いきなりそこは天上世界。絶対神アマテラスオオミカミに「ファーンドームの星王」と呼ばれながらの、対話のシーンから始まります。
 この部分、今回の物語の構成において非常に重要な場面なのですが、会話からそれを読み取るのは少々難しい演出になっております。
 神の主観時間、などという矛盾した言葉を使わないようにするならば、すべてが起こった後の話、とでも表現しましょうか。それもまったく正確な表現ではなく、なぜならその物語は作品内ではこれから語られるものだからです。
 とにかく、ファーンドームの星王は言います。ジョーカー星団にいたころの心残りを、今、思い出しているのですと。
 ページ左上に結ばれている笑顔のシルビスの像は、天上世界では思いと現象の間にはなんの差も無いというような、幻想的な表現になっているように思います。


二つ目の見開き

 これまたびっくり。
 場面は変わって・・・・・・一番手前に大きく「暁姫」、一段下がって「エンプレス」、その向こうに今回表紙にあった謎のMH、そしてさらにその向こうには三騎のエートールが、それぞれ待機状態で佇んでいます。
「いつまでこうやってるの? 城に突入するよっデプレ兄さん!!」
 ひときわ大きく響く、暁姫の騎士の声に、デプレが答えます。
 「だめだ!! マキシ! わかってるのか?」
 暁姫の騎士はやはりマキシでありました。城にはマキシの母であるミースと、彼らの父であるカイエンのパートナーだったファティマ・アウクソーが囚われているというのです。
 そう、これは、マジャスティックスタンドも終盤の、ハスハ奪回作戦の直前描写であります。
 大きな流れをつかむには、次の見開きまで読む必要がありますが、とりあえずはまずここで紙面のほとんどを占領している三騎のMHを順に見ていくことにしましょう。

 まず、暁姫です。
 別名を、LEDミラージュB4デストニアス。ああ、かっこいい名前。
 ミラージュのダガーが刻まれた半透明装甲が美しく、その内側の精密なフレームは露骨にメカメカしていて、フリークス的な色気すら感じてしまいます。肩部装甲にはきっちりとナイトマスターの紋章。
 頭部から後方に二つ、長く伸びたカウンターウェイトは、恐らくその左手に持たれた恐ろしく肉厚な実剣を前に持って構えたときに、全身のバランスがとられるように作られているのでしょう。この部分を見ただけでも、思いっきりピーキーな操縦感覚を必要とするMHであることが見て取れます。
 先日、ガレージキットメーカーであるボークスの秋葉原のショールームで、暁姫のキットを見てきました。去年の十一月に上野の博物館で見た中国国宝展に展示されていた至宝の仏像たちとも比肩しうるように思えるほどの、すばらしい作りこみが施されたキットで、眺めていてもよだれが出てきてしまうほどに精巧に作られていました。
 しかし、今回の、このついに連載中に登場した暁姫は、当然、今までに公開されていた設定画よりも細部が細かく、また、横からの描写なのでこれまでに見えなかった部分もはっきりとわかるので、ひょっとして、あの素晴らしいガレージキットにも、また今後改修が必要になってしまうのではないかなどと、いらぬ心配をしてしまっております。
 こうしてみると、扁平な頭部の形状がまた特殊だなあと思います。

 次にエンプレスです。
 騎乗するはデプレ。ページ左下に顔のアップがありますが、好青年に育っております。いや、まだ少年と呼んで差し支えないような幼さがあります。
 ナイトフラグスに曰く、彼は成長が遅く、弟のマキシに成長を追い抜かれてしまうとのことなので、この位の外見のまま、まだしばらくの時を過ごすのでしょう。
 エンプレスは、肩を覆ういつもの白い装甲を外した状態で立っています。というか、肩の装甲はいわゆる可動ベイルなのでしょう。エンプレスは二百年前に大活躍したMHですし、これを参考に、エートールの特徴的なアクティブバインダは作られたのかもしれません。腕の部分の浮遊式ベイルも、とりあえず見受けられません。
 ひょっとしたら、このハスハ開放戦に臨むまでの戦闘で失われてしまったりしているのでしょうか。

 さあて、件の謎のMHです。
 まず、シールドにでっかくミラージュマークとギリシャ数字の十です。ミラージュの十番といえば、表がハインド、裏がスパークです。ということは、まあ、スパークですね。ナイトマスターの紋章も付いてるし。
 と、騎士に目星がついたところで、依然としてこのMHについてはさっぱりわからない。装甲はともかく、断片的な情報を汲み取っていくと、フレームは例の「ファントム」に非常によく似ているように思うのですが、角の形状はまるで違います。これは多分、現時点では名称の判明していないMHと思ってしまってよいのではないでしょうか。
 一応、クロスビンの設計によるものの中で今までに名前が出ていて姿が公開されていないMHとして「グルーン・エルダグライン」の可能性も挙げておきます。でも、グルーンはジャスタカークのMHだしなぁ・・・・・・。
 こうして、未知のデザインに苦しめられること、これがFSSファンであることの最大の快感のひとつであります。マゾです、ええ。

 ちなみにここまでは、本屋さんで立ち読みでした。このページを見て、いきなりのマキシの登場に唇を噛んで驚き、これはやはり家で熟読せねばとレジに向かったのでした。


三つ目の見開き

 どげ~んと出ました、飛び出しそうなほどおっきな目ん玉のかわいこチャン。さらりとエグイことを言ってのけながら、その幼い純真さと、内に備わった狂暴さが口調に出ています。
 これがマキシです。うわさに違わぬ美少女っぷりです。男の子ですけど。
 さて、「母」であるはずのミースの命が危ないというのに、「戦闘区域に人がいたって戦う」という一般的な理論に基づいて平気で突入を進言するマキシを、「バカッ! マキシのバカッ!! わからずや!」とデプレが怒鳴りつけます。
 実の母ではなくとも、父カイエンとの間にマキシをもうけた、「この世でたった一人の本物の母様」であるミースを慕って、デプレは怒鳴ります。
 この場面は、人間的な感覚の欠落しているマキシを、仲間がどうやって押さえるか四苦八苦するというシーンです。このころ、マキシというのは、仲間でさえ扱いに手を焼くほどの問題人物であったわけです。
 マキシは、そもそもバランシェの作り出した四十六体目の作品であり、その特殊な遺伝子操作を行われた(おそらくはミースの)卵子に、超帝国の最強騎士、剣聖スキーンズとヤーン・バッシュ王女が、二人の受精卵をドラゴンに託し、それをこれまたバランシェが受け取ってファティマ・クーンの体に宿らせて誕生したカイエン、その遺伝子を組み込んで生まれたという、超人類なわけであります。
 実も蓋も無い言い方になりますが、これはもう、よくぞ人間の形で生まれたものだなあ、というのが、まっとうな評価なのではないでしょうか。
 そんな彼がやがて人間らしい心を持ち、タイカ宇宙へ渡り、ついには神になっていくという物語が、FSSのエピソードのひとつとしてこれからかなりの時間をかけて語られていくわけです。

 ここで、ビルトが戦況を報告してくれます。この時点でのマスターは、ワンダン・ハレーであるようです。コマの向こうにはバルンガ隊長も健在です。
 ハスハント市の西壁には斑鳩王子とタイトネイブの率いるミラージュ騎士団が布陣完了。
 南壁には、アルル、セイレイ、マイスナーの暴風三王女とディスターヴ隊。
 東壁はハスハの精鋭として名高いスキーン隊になんと、すでにクバルカンの法王となっているミューズのバング隊が加勢。
 そして中央北壁には「ナイアス様の”ファントム”」と聖導王朝騎士団。
 ほとんど、FSSオールスターズといった布陣になっています。(この場面で名前の出ていない人物に付いては、大変気にかかるところです。また後で記述します。)
 コミックス十巻の最後の書き足し漫画を読んで以来、斑鳩とタイトネイブの関係が気になっていたのですが、ひょっとしたらこのお二人、ちょっといい仲になってるんだったりして、とか邪推。三王女の揃い踏みも、きっとここにいたるまでに相当な紆余曲折があったのではと想像されます。そしてミューズ率いるバング隊の参戦。『ナイトフラグス』にはマジャスティクスタンドの終盤にクバルカンの参戦の気配ありと記述されていましたから、まさしくこれは魔導大戦の終盤なわけです。そして、「ナイアス様の”ファントム”」ですが、今回登場している「ミス・マドラ」と呼ばれる謎の女性がそのナイアス様なのだとしたら、これはもう素直に、さっきから僕を苦しめている件のMHをファントムとして認識してしまってよい、ということになりそうです。ちなみに、ミス・マドラがスパークなのは間違い無いと思われます。ミラージュの十番付けてますから。推測ですが、二月号で公開されたファントムは、大戦初期の装甲形状で、今月号の憎いヤツは大戦末期のスパーク用チューン版、ということなのではないかなあ。
 実はこの場面、キャラクターの配置に関して解釈に困っております。今この場に描かれているデプレやマキシたちは、上記のどれかに属しているのか、それともこのハスハント包囲網とは別に、バッハトマの城の前にいるのか、書かれている情報からは判断しきれないのです。バッハトマの王城というのがハスハントの中にあるのでしたらスッキリするんですが。

 ビルトの報告を聞く、スパリチューダとコンコード。報告の最後に、「今”エスト姉様”が到着した」とギラから連絡があった旨が付け加えられます。
 左のページに入って、折り目正しいフレアスカートに大きなヘアバンド、なのにどこかアブノーマルな雰囲気の漂うミス・マドラが語り始めます。
 四十五年前にバッハトマの黒騎士のファティマとしてハスハントを壊滅させたエストが、今度はハスハント開放のためにバッハトマと戦うというのです。
 黒騎士、エストといえば、われらがヨーン・バインツェル君。
 エストがこちらの陣営についたということは、少なくともバッハトマの黒騎士デコースは倒れたということです。ヨーンが本懐を遂げて、ひょっとしたら四代目の黒騎士になったのか、それとも・・・・・・。

 と、ここまで書いたところで、時間がきてしまいました。
 書きはじめからすでに五時間が経過しようとしておりますが、まだ全体の半分、といったところでしょうか。
 この続きは、翌十日付けの更新にて。

キャラクターズ+-

 天災(2000年9月11日の大雨)によって引き伸ばされてしまった、今回の「読み解け」の完結編です。
 大雨と大風で荒れてしまったベランダの後片付けも一段落したので、先ほど「ナイトフラグス」を買いに行きました。ところが、当然といえば当然なんですけど、入荷予定だった模型屋さんには、やっぱり大雨のためにまだ品物が入っていませんでした。
 しかし明日には入るということで、改めて予約を確認して返ってまいりました。
 というわけで、僕はまだ「ナイトフラグス」に目を通しておりません。


エンゲージ・オクターバーSR3
ファティマ・シクローン

 SR3は我らがセイレイ様のMHで、エンゲージシリーズの三機目にあたる騎体です。そのデザイン、およびカラーリングは、セイレイの父コーラス三世の乗っていた初期型ジュノーンSR2(ウリクル・ジュノーンというらしいです)とまったく同じなんだとか。コーラスではセイレイ・ジュノーン、イズモアストロシティではジェイド・テンプルと呼ばれているそうです。
 そのファティマはシクローン。ヘッドライナーであるセイレイではなく、こちらがSR3の主であると記述されています。クラトーマとV・サイレンのような、いわゆる専用ファティマというものなんでしょう。なんだか、ジュノーンとクローソーの関係も思い起こされます。
 それにしても、いつのまにやら初期型ジュノーンに「SR2」という型番がついています。
 試みに、これを鵜呑みにして勝手に系統立ててみます。まず最初に作られたのが剣聖ハリコンの乗機であり、そして現在はアルルが持ち出しているエンゲージ・オクターバーSR1。そして次に作られたのはマロリーのMK2。「MK2」ってくらいですからかなりの設計変更が行われたのではないでしょうか。その次が、多分、SR1の再設計版としての、コーラス三世のジュノーン(SR2)。それで、きっとほぼ同時進行で、次の代のコーラスの王子用にSR3も作っていて、それをセイレイが使っているといったところでしょうか。確か、このへんの時間的繋がりをはっきりさせる資料がどこかにあったような・・・
 あ、しまった。
 昨年の12月号の表紙の、コーラスの家系図に、今回の一連の「読み解け」の中でわからないとしてきたことがいろいろ明記されているではないですか。
 ありゃりゃ、シクローン、タイフォーン、モンスーン、ユリケンヌは四人合わせて「風の4ファティマ」といって、すべてアルセニック・アイツ・フェイツ・バランス10というマイトが作ったんだそうです。バランス10ということは、Dr.バランシェのお母さん?あと、四人という数字は4ファッティスと同じでこれまた気にかかります。
 かくもあっさりと、この家系図の読み解きを面倒がって後回しにきてきたツケがまわってきてしまいました。
 なになに、マロリーは「マイスナー」の名前を恋人からもらったって?アルルとナトリウム・シング・桜子(謎の少女A)は異母姉妹?マヨール・レーベンハイトはバランカ家の王子様?ぐわ、インプットしなおさなくてはいけない情報が多すぎます。なんだか、うれしい悲鳴と本心からの悲鳴の境目がぎりぎりになってます。

 逃げるように、次へ行きます。


ファティマ・ユリケンヌ

 アルルのパートナーで、そのコスチュームはカイエンのアウクソーと色違いの同デザインです。
 SR1と並んでハスハの旗騎となるシュペルター(A-TOLLバージョン)のファティマと御揃い、ということで彼女達はまさにハスハ軍のシンボルなのでしょう。ここから僕の予想的側面が強くなりますが、本来ハスハのシンボルとなるべきMHエンプレスは、魔導大戦開始の時点で、乗り手であるデプレがまだあまりにも幼いために不参加なわけです。そして、長く続く魔導大戦のうちにデプレは成人し、カイエンが倒れ(倒され?)、ハスハ軍の騎士団長の地位も継ぐことになるのでは。もちろん、そこにはやがてマキシの姿も見られるようになるはずです。つまり、魔導大戦というのは、主に暴風の三王女やこれまでのキャラクター達が活躍する前半と、その三王女やジャコー達もベテランになって、主役がデプレ達さらに下の世代に移る後半に分かれると考えると、すっきりするように思います。果たして、アイシャやクリサリスは天寿をまっとうできるのでしょうか?
 ところで、ユリケンヌに関して、不確かな妄想ながら気になる点を一つ。
 最近、オージェやらジュノーンやらの「元版」ががんがん登場してきたことで、どうやらコミックスの一巻以前の時代にも激しい戦争やドラマが繰り返されていたらしいということが、僕らに実感として伝わってきたように思います。
 そういった状況を端的に表す言葉があるとすれば、「歴史は繰り返す」といったところでしょうか。たとえば、魔導大戦終結後に発生するというハスハの十年戦争というのがあるそうですが、それも過去に剣聖デューク・ビザンチンがハスハを守って戦った歴史を繰り返しているという捕らえ方も出来ると思います。
 さて、一つ上のファティマ・シクローンのところでちらっと述べましたが、僕は「風の4ファティマ」と「4ファッティス」の関係がなんだかとても気になるのです。Dr.バランシェの先祖が作り出した星団最初の四人のファティマ達と、バランシェの母と思われる人物の作り出したこれまた四人のファティマ達。こじつけと言われたらそれまでですが、風のファティマの一人シクローンは、ハスハの地で、4ファッティスの一人フォーカスライトがその正体であるアウクソーと、同じデザインのファティマスーツを着てともに戦うというのです。なんというか、そこに「何か」があるような気がしませんか。
 ただ、さすがにこの二人が同一のファティマだとかいうのはありえない話ですし、実際にどのような関係があって、どんな物語が展開されるのかはまったく予想できないです。


おまけ・心配性のおぼっちゃま

 心配性だとは存じ上げませんでした、フィルモアの新皇帝ダイ・グ・フィルモアの少年時代のイラストです。
 スカートはいてるんで間違いありません。カイエンに大怪我させられる直前、といったところでしょうか。


バッシュ・ザ・ブラックナイト

 あまりにも重厚で、凶悪なたたずまいのバッシュです。
 ベイルを地面に置いて、手には二刀流。間違い無く、狂乱の貴公子デコーズ・ワイズメルの駆る騎体です。
 記述によりますと、魔導大戦の開始直後、まっさきにハスハ王宮に乗り込んでくるとのこと。迎え撃つのは、A-TOLL、スクリティ、エンゲージらのもようですが、騎士の質ではミラージュに一歩遅れを取ると思われるハスハの陣営で、果たして先日のミラージュ王宮での惨劇の再現なるか、見所が多い戦いになると思われます。
 もちろん、カイエンならば間違い無くデコースに勝てるでしょうけれど、カイエンがハスハの騎士団長になったことは星団中に発表されています。それをわかっているはずのデコースがわざわざカイエンの居る所に策も無く乗りこむとも思えません。


ファティマ・ミナコ3D(著者近影)

 あの、なんていいますか、その・・・。
 自分の作品上でさんざん「妖精」とか「魔性」とか描いておいて、著者自らがファティマを名乗るコスプレをするということが許されるのかどうか、ということは置いておきまして、男なのになんでこんなに脚がキレイなのか、ひょっとしたら奥さんより細いんじゃなかろうか、ということも置いておきまして、同誌上で友人の幾原監督も同様のコスプレをしているけれど、同様に脚が矢鱈にキレイなのはなぜだ、なんてことも一先ず置いておきまして、その・・・
 どうして永野先生、セーラーヴィーナスのコスプレしてらっしゃるんですか?


まとめ

 ミナコ3Dをはじめて見た時のショックがよみがえってきて、なにも言えません。
 はやくナイトフラグスをこの手にしたい&コミックス十巻が欲しい、それだけです。
 ミナコ3Dは、これからも時々登場するかもしれないとのことで、ひょっとして、さらにセーラー戦士を増やそうとか、そういう恐ろしいことを考えさせないためにも、永野先生にはどんどん仕事をして欲しいと思います。
 でも、悪いことに今回のドラクエはシナリオがとてつもなく長いらしいので、連載再開がいつになるのか見当がつきません。
 待つ身は辛いですが、結局これもいつものことと割り切らねば。
 希望が訪れる日を、ともに待ちましょう。忍ぶ愛です。

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