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ブレゲの新CEO グレゴリー・キスリング氏は、アジアを歴訪した。

ブレゲから届いたニュースレターに、時計関係者は少なからず驚いたはずだ。創業250周年を翌年に控えたこの時期に、CEOが交代したというのだから。この日からメゾンの舵取りを任されたのは、オメガの製品デザインやムーブメントの開発に20年間にわたって関わってきたグレゴリー・キスリング氏。突然の交代劇が、違和感を抱かれていることに気付いたのだろう。2日間の日本滞在の間、キリング氏はブレゲファンや取引先、メディア関係者らと時間が許す限りコミュニケーションを図った。物腰は柔らかく、知的な語り口が、我々の不安視を払拭する。2022年からオメガの商品開発担当副社長としてブランドを大躍進させた手腕が、ブレゲでもいかんなく発揮されるはずだ、と。


ブレゲCEO グレゴリー・キスリング/マイクロテクノロジーを学び、学士号とMBAを取得。さらにラグジュアリーマネジメントの修士号を取得した後、カルティエの技術部門を経て、2004年にオメガ入社。プロダクトマネージメント責任者として経験を積み、2022年に商品開発担当副社長に就任した。2024年10月1日より、現職。

photo by Keita Takahashi

2代連続の時計師ルーツのCEO誕生。自身が感じるミッションとは?
極上スーパーコピー時計代引き専門店そら~「自己分析は得意ではないので、信用してもらえないかもしれませんが」──そう前置きをした上で、グレゴリー・キスリング氏は、「CEOとして何を期待されているとお考えですか?」との我々からの質問に対し、慎重に言葉を選びながら語り始めた。

「私はオメガで長くプロダクト開発に従事し、その後は世界中を歴訪してコレクターや時計関係者とコミュニケーションを図り、新たなコラボレーション、イベントの企画にも携わってきました。そうした多様性が評価され、起用されたのだと思います」

 前ブレゲCEOのリオネル・ア・マルカ氏は、技術畑一筋の人物であった。対してキスリング氏は開発者である上に、マーケティングも経験したオールラウンダー。さまざまなイベントの準備が進んでいるであろう2025年のメモリアルイヤーと、その先の未来を託すには最適な人物だと言えよう。

「オメガは量産型ブランドであり、ある意味工業製品的です。対してブレゲの時計は、すべての箇所に必ず人の手がかかわる真の意味での高級時計です。来年250周年を迎える老舗であり、アブラアン-ルイ・ブレゲから受け継いだ素晴らしいヘリテージがある。そうしたDNAは決して変えることなく、最新のテクノロジーとの融合でさらなる革新を目指していきたいと考えてます」


photo by Keita Takahashi

ブレゲが持つ強みは、時計1本ごとに現れる固有の表情
ギヨシェパターンを内製できる唯一の時計ブランド
 キスリング氏が言う、ブレゲの手仕事と初代から受け継ぐヘリテージを象徴する1つが、ギヨシェダイヤルである。

「他社は、19世紀から20世紀初頭に使われていたギヨシェマシーンをメンテナンスしながら使っています。対してブレゲは、初代の時代と同じ仕組みのギヨシェマシーンを自社製造している唯一のブランドです。パターンカムも製作が可能なので、新しい文字盤の模様が生み出せる。これは他社にはできない、ブレゲならではの強みです」

 例えば、マリーンコレクションで使われる波モチーフのギヨシェは、新たに製作したパターンカムによってかなえられたオリジナルである。さらにダイヤモンド製の彫刻刀により、脆い真珠母貝(MOP)へのギヨシェ彫りも実現している。

「またグラン・フー エナメルの技術も有していて、発色が非常に難しいダークカラーであるブラックやネイビーのエナメルダイヤルをリリースしてきました。ギヨシェもエナメルも、人の手が大きくかかわっているため、ブレゲの時計は1つずつ微妙に表情が異なるユニークピースになってくれるのです」

 ギヨシェとグラン・フー エナメルを組み合わせた「新たなフランケダイヤルの登場はありますか?」との問いに、キスリング氏は「素敵ですよね」と笑顔を浮かべ、含みを持たせた。


ブレゲ クラシック 7337 文字盤全体に施されたバーリーコーンのギヨシェパターンと、シンメトリーに配されたカレンダーとムーンフェイズ、それに対してオフセットしたスモールセコンドなど同社らしいデザインが光る。


ブレゲのマニュファクチュールには、レストアされた古いギヨシェマシーンと自社製造した真新しいマシーンとが合計50基以上並ぶ。またギヨシェの職人を、社内で育成してもいる。

ブレゲウォッチの大いなるルーツはスースクリプションとモントレ・ア・タクト
「ギヨシェとエナメルに加え、スモールセコンドなどをオフセットしたアシンメトリーなダイヤルデザインも、初代が製作した懐中時計にしばしば見られるブレゲのDNAです」

 この日、キスリング氏が着用していたのも、トゥールビヨンをオフセットしたアシンメトリーダイヤルであった。クラシカルな印象をキープしながら、レイアウト操作で大胆な印象をブレゲは併せ持たせてきた。

「2005年に登場したトラディションコレクションも、すごく古典的であると同時に、極めて大胆でもあります。ムーブメントをダイヤルから見せることは、今ではトレンドの1つで他社にも採用例が多くあります。しかしトラディションのように、メゾンのDNAから生まれた例は他にありません。そのルーツとなったのは、初代ブレゲが考案したシンプルなスースクリプションウォッチであり、そこから派生したむき出しになった時針に手で触れて時間を知るモントレ・ア・タクトの背面に備わっていた、オフセットダイヤルの下側にムーブメントを構築するスタイルを受け継いでいるのです」


ブレゲ トラディション オートマティック レトログラード セコンド 7097 ブティック限定モデル。かつてのスースクリプションウォッチからインスパイアされて、2005年に誕生したコレクションだ。


グレゴリーCEOの手元にはクラシック トゥールビヨン エクストラフラット オートマティック 5367が。5時半位置にアシンメトリカルに配されたトゥールビヨンは、時計デザインとしてもユニークだ。

photo by Keita Takahashi

 2005年にトラディションを発表した際、故ニコラス G. ハイエック氏は、「これはブレゲのアバンギャルドだ」と強く訴えた。そしてフュゼチェーン(鎖引き)によるトゥールビヨン、完全に独立させたクロノグラフ輪列、巨大なレトログラードデイトといった独創的な機構の数々を搭載してきた。

「発明と革新こそが、ブレゲにとってもっとも重要なDNAです。トゥールビヨンが初代ブレゲの発明であることは、古くからの時計ファンには周知されていますが、若い世代のコレクターには意外と知られていません。ですから250周年を機に、若い人たちにもっとアプローチしたいと考えています。メゾンの歴史を知ってもらう機会を作り、ギヨシェや面取りを体験してもらうなど、ブレゲの魅力を肌で感じていただきたい」

 オメガ時代にも、キスリング氏が企画したイベントは大盛況で話題にもなった。その経験が、ブレゲでも生かされる。


ブレゲの初代懐中時計トゥールビヨンのひとつ、No.169。ジョン・アーノルドのムーブメントにブレゲのトゥールビヨンキャリッジを搭載したもの。


トラディションのインスピレーション源となった、スースクリプションウォッチ。ブレゲ初期の懐中時計 No.3424(1820年販売)。

ブレゲらしいデザインをするために、ムーブメントが必要となる
 アシンメトリーダイヤル、トラディションのメカニズムを表に露わにするスタイルといったブレゲならではのデザインは、オリジナルのムーブメントなくしては成しえない。実際、キスリング氏は「ムーブメントの開発は、まずダイヤルデザインをどうするのかを検討することから始まる」という。

「今も、複数のキャリバー開発が進んでいます。それらの機構は、各コレクションのバランスを考えながら決められます。そしてシンプルなタイムオンリーのキャリバーであっても、ブレゲらしさが求められます」

 開発中のキャリバーの中には当然、250周年記念モデル向けも含まれていますよね、と尋ねると「開発は、進んでいます。それらは、ブレゲの偉大な遺産と現代、さらに未来をつなげるタイムピースになります」との答えが返ってきた。

 現代のブレゲは、初代ブレゲの発明を受け継ぎ、アップデートしてきた。
「トゥールビヨン、ミニッツリピーターのリング状ゴング、永久カレンダー、耐衝撃機構パラシュート、自動巻き機構ペルペチュエルはどれも初代の発明であり、ブレゲが元祖です。そうした事実を、もっと広く知ってもらいたい」


 初代の発明で、まだ再現されていない機構はいくつかある。代表的なのはレゾナンス、そして初代も完成に至らなかったナチュラル脱進機。初代によって製作されたレゾナンス懐中時計が、開発チームの手に渡って久しい。ナチュラル脱進機も、ブレゲが先鞭を着けたシリコン製であれば実現可能だろう。

「レゾナンスは、ブレゲにとって重要なメカニズムですが、実現へのハードルは高い。シリコンパーツは、同じグループ傘下のニヴァロックスとの連携が欠かせません」

 これらの登場を肯定も否定もせず、しかし真摯にキスリング氏は答えてくれた。250周年記念モデルでは、どんなメゾンの歴史が紡がれるのか、胸を躍らせて来年を待ちたい。

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